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第六百二十九話 女子会の愉しみ [日常譚]

 ここ数年、半年に一度くらいの割合で、気のおけない友人たちと集まって飲

み会をしている。いわゆる女子会というやつだ。メンバーはだいたい固定して

いて、大勢集まるときもあれば、参加できない人がいたりしてこじんまりと数

名ですることもある。今回は五人だけの集まりとなった。集まってなにをする

わけでもなく、ただ美味しいものを食べて飲んで話すだけなのだが、それが楽

しいのだ。冬にはまだ早いが、鍋料理をつつきながらおしゃべりがはじまる。

「でね、ほんとうに腹が立つのよ」

 旦那の話がはじまると、同様に所帯持ちの人間は相づちをうつ。

「お菓子のレシピをパソコンからプリントしてって言ってるのにね、砂糖がい

っぱいいるらしいぞとか、三日くらいかかるって書いてるぞとか、中味を知ら

せてくるばかりでね、そんなのいいから早くプリントしてよって。それでね、

未だにプリントアウトはされてないのよ」

「未だにってどのくらい?」

「あれは、先週のことだからぁ、もう五日くらいたつかなぁ」

「なによそれ、どういうこと?」

「ウチは旦那はずーっと中国にいるからねー。喧嘩することもないなぁ」

「中国といえば、最近いろいろあるけど、大丈夫なん?」

「うんうん、ウチのが行ってるとこはまったく問題ないって」

「ああ、私んとこもずーっと単身。三年前に九州から戻ってきたと思ったら、

今は東京やて。私もう十三年も結婚してるけど、一緒に住んだんは三年もない

と思うわ」

「その方が夫婦関係は長持ちするんじゃない?」

「その点、私はずーっとひとりだからねぇ。喧嘩する相手も家にはいないよ」

「ああ、私もわたしも!」

「あら? メグは今日、東京からわざわざ?」

「んーっと、他の用事も全部併せて帰ってきたからねぇ」

「ほかの用事って?」

「今回はね、実家に預けてる猫の様子見とさ、あと格闘技を見るために」

「格闘技? へーそんなの好きなんだ?」

「私は格闘技よりもサッカーかなぁ」

「あ、私は相撲」

「私は別に」

「私もスポーツは……」

「んで、黒豆を炊くのに夜から水に浸けておくでしょ?」

「そうそう、黒豆は身体にいいからねぇ、美味しいし」

「ダイエット方法で紹介されてたよ」

「ダイエット? 私はバナナダイエットで」

「バナナダイエットって? バナナは炭水化物でしょ?」

「炭水化物は茄子にも入ってて……」

「豆腐がいいに決まってるわ」

「豆腐より豆乳がエキスたっぷりで……」

「豆乳ってでも、飲み過ぎたらだめなんでしょ」

「飲み過ぎってあなた、それ、バケツ一杯も飲めばよくないでしょうけど」

「イソフラボンは女性ホルモンに似ているからいいわけでしょ?」

「女性ホルモンといえば、更年期障害が」

「あ、私もうすぐ還暦なんだ」

「ええー! それじゃお祝いしなきゃ。赤いちゃんちゃんこ!」

「ひゃー、もうお腹いっぱい。この鍋って、案外お腹ふくれるねぇ」

「あかん、もうはいらへんわ」

「そうねぇ、もうみんな満腹よねぇ」

「じゃぁ、そろそろ雑炊に」

 それでもまだまだおしゃべりは続き、喋り足りずに二次会に向かう。

「ああー居も楽しかった」

「うんうん。いっぱい食べたし、しゃべったし」

「で、なんの話してたんだっけ?」

「旦那に腹立つ話でしょ?」

「あ、単身赴任の話やよ!」

「格闘技が好きってこと」

「ダイエットじゃなかったっけ」

「うーん、そんな話だっけ? 豆の話じゃなかった?」

 人の話は、自分の話の前振りにしか過ぎない。それぞれに自分のことだけを

しゃべって、しゃべって、それだけでもう満足。それこそが女子会の愉しみで。

「今度は忘年会? 新年会の方がいいかな」

 三ヶ月もすれば、またしゃべりたいことは山積みになっているだろう。

                       了

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