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第八百三十九話 ナビゲーションシステム [文学譚]

 最近の車は、ナビゲーションシステムというものが搭載されていて、とても便利だ。通称ナビと呼んで、知らない土地に出かけても、行きたい場所の名前や住所を 入力すれば、最短の行き方で案内してくれるので、もう道に迷うこともない。行き方がわからなくて悩むこともなくなった。どこへいくにもまずは、ナビに行き 先を入力し、ナビの案内通りに運転する。頻繁に行く場所はあらかじめ登録ができるから、記憶しておく必要もない。毎回ナビが連れて行ってくれるから。

 こうしてナビをフル活用していると、実家に向かうときも、自宅に帰るときでさえ、ナビに案内してもらわないと不安を感じるようになってしまった。ほんとうにどこに行くのにもナビに連れて行ってもらうのだ。

 進化したナビは行き先を尋ねて来る。

「今日はどちらに参りましょうか?」

 行き先を告げるとナビが勝手にインターネット検索をして住所を確定し、案内してくれる。私はただ車を動かすだけ。

「運転手、いまあなたは道を間違いました。私はさっきのところを曲がれと言ったはずです」

 こうなると、もはやナビと運転手のどっちか主体かわからなくなる。

十年もナビを使い続けた私は、もはやナビなしではどこにも行けなくなっていた。車に乗っていないときでさえ。モバイルタイプのナビを手に入れ、常にナビを携帯している。

「次に私は、どこに行けばいいですか?」

「次に私は何をすればいいですか?」

「私はどのように生きたらいいですか?」

「私の人生の行き先を教えてください」

 いまやナビは私をどこへでも連れて行ってくれる。

                               了


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