第八百三十五話 国民不名誉賞 [可笑譚]
「なんかおかしいよな」
テレビで中継されている国民栄誉賞の様子を見ながらぶつぶつつぶやいている男がいた。下町に住む留五郎という男だ。横で一緒にテレビを見ていた熊吉は留五郎のひとり言を聞き逃さなかった。
「なんだよ、おめぇ、この表彰が気に入らねぇってのか?」
「誰がそんなこと言った?」
「いま、なんかおかしいって呟いただろ?」
「ああ、聞こえてたのか。あれはなぁ、違うんだ」
「違うって、おめぇは半神ファンだから元虚人の選手が表彰されるのが気に入らねぇんだろ? そだろ?」
「いやいや、それは少しはあるけどなぁ、そうじゃないぞ。どうだ、あの流締監督の姿。松居選手の立派なコメント。こりゃぁ感動ものだぜ。なかなかいいこと言ってるじゃぁないか。周りのみんなの力で、自分がこのような環境にしてもらったんだって。よくわからんが、立派な台詞じゃぁないか」
「なぁんだ。てめぇも感動してたのかよ。じゃぁ何が気に入らねえ?」
「気に入らねぇっていうか、おかしいて言ってるんだよ」
「だから、何がおかしいんだい」
「そのな、物事にはよ、上があるなら下だってあるんだよ。トップ賞があるなら、最下位賞か、せめてブービー賞があるってなもんだ」
「なんだそれ。ボーリング大会じゃあるまいし」
「いやいやいや。やっばしよ、上だけじゃあ片手落ちだろう。一生懸命生きたけれども、だめでしたという人間にもよ、残念だったなぁって言ってやらないと、生きていく望みを失うぜ」
「それはわかるが、どんなやつに不名誉賞を贈るんだい?」
「そうだなぁ。たとえばよ、何回も失敗して捕まり続けの泥棒とかよ。生活保護費を騙し取り続けている底辺の奴とかよ」
「何だそれ。そんな奴に賞を贈ってええんか?」
「ええも何も。そういう奴こそ、表彰でもして救い上げてやらねば」
「ってか、それっておめえのことじゃないんかよ。何回も捕まってて、人の金騙し取ってて」
「まぁ、そうだな。たとえは俺だよな」
別に、褒めて欲しい訳じゃない。トロフィーなんかいらないが、ああいうのもらったら、きっと金になるんだろう? じゅ十万、いや、五万・・・・・・五千円でもいいや。国民不名誉賞、誰か俺にくれんかなぁ。誰か、おくなはれ!
了