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第八百二十七話 ハッピー・バースデー [怪奇譚]

 

 バースデーというものは、年を重ねるごとに自分の中でうらぶれていく。まだ子供だったころには、親や親戚、周りの友達がみんなして祝ってくれたし、プレゼントをもらうのが楽しみで、バースデーが近づいて来るとなにかしらワクワクと心が浮ついたものだ。あの頃は、ただ祝ってもらえることだけが楽しみだっただけで、バースデーの意味などよく考えてもみなかった。

 

 歳を重ねるごとに、毎年やって来るバースデーの意味を考えるようになった。一年間生きたご褒美、人はそう言うが、実際には確実に一年歳を取っているわけだ。つまり、寿命を一年使い果たしたというしるしなのだ。

 ある賢人が言った。バースデーの度に一年老いたと考えるのは不毛だ。一年間の豊かな経験を身につけたと思う方がいい。

 確かにそういう考えこそが、これからの人生を意味あるものにするだろう。だが……

 私はバースデーという言葉に、なにか不穏なものを感じてしまう。

 生まれ来るもの。それの中には美しき者や正しき者もたくさん含まれるだろう。だがその一方で、悪しき者や穢れた者どもも生まれているのに違いない、そう思えるからだ。生命はどのようなものでもすべて清く尊く美しい、そう考えるのは妥当だが、生命あるものではない誕生だって世の中にはある。兵器の誕生、悪意の誕生、ウィルスの誕生……そんなものをここに並べるのは詭弁だというかもしれない。だが、間違っているか?

 私は自分のバースデーが来る度に自分の皮膚を見つめる。鏡の中に映った醜く美しい自分の姿……緑色の鱗様の皮に覆われた皮膚の下に埋もれた赤い小さなふたつの点が自分自身を見つめている。私は悪しき者なのか、それともそうではないのか。まだ小さかった頃には、皆私を恐れてバースデーの度に私を喜ばせようと努力していたのだが……その人たちもいまはもういない。

                                 了


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