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第八百三十六話 働くお父さん [文学譚]

 楽下はアウトドア用のバーベキューコンロの網の上に肉を並べながら、テントの中にいる子どもたちに叫んだ。

「おぅい、もうすぐ肉が焼けるぞ!」

初夏から夏にかけて、楽下家ではアウトドア用品一式を車に積み込んでキャンプに出かける。楽下以蔵が特にアウトドア派だというわけではない。ホテルをとって旅行に出るよりも、この方が安上がりだからだ。それに子どもたちの情操教育にも良さそうだし。

し かしテントを立てたり、片付けたりするのはほんとうに面倒くさい。子どもたちがもう少し大きくなったら手伝わせるのだが、いまは以蔵ひとりの仕事だ。妻に 食材の準備を言いつけて、その間にテントを立てたり、火を起こしたり、そういうのは自分の役割だと以蔵はそう思っている。

 こういうのは男の仕事だ。肉を焼くのもな。女たちにはできないことだからな。

以 蔵はテントを立てているときも、肉を焼いているときも、妻や子どもにああだこうだと偉そうに指図をする。それはそこに置くのだ。ゴミは一箇所に捨てろ。ウ ロウロするんじゃない。野菜はこんな風に切るのだ。妻はニコニコして夫の指図を待っている。そう、これが男の姿というものだ。しかし面倒くさいなぁ。

 キャンプも無事終わり、家に帰った翌日。仕事から帰った以蔵は昨日までの自分の働きぶりに大満足して家の中でごろごろしている。

「あの人、もうごろごろして。家では、掃除も片付けも、料理もしないんだから。キャンプではあんなに働くのに。いっそ、キャンプ場で毎日暮らしたら、料理くらいしてくれるのかしら」

 以蔵の妻は夕食を作りながらそんなことを考えていた。

                                                        了


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