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第六百七十四話 動画ひとつよろしく [妖精譚]

 暇さえあればパソコンの画面に食らいついている。最近の俊介は、どうやら

インターネットオタクと呼ばれても仕方のないような日々を送っているのだ。

インターネットで何をしているのかと言うと、実は何もしていない。ただただ

見ているのだ。俊介が虜になっているのは動画サイトだ。MeTubeという動画

サイトには、何かしら自らムービーカメラで撮影された動画が、毎日世界中か

らアップされている。それらはなんでもない日常が撮影されたような代物もあ

るが、とんでもないおもしろムービーが上がっていたりする。世界中の人々が

そういうものを見つけて見るから、視聴者数がとんでもなくふくれあがって、何

万、何十万というヒット数が示されていたりする。それを見た人々が、今度は

自分がそのような面白い動画をアップしてやろうと、もっと面白い動画を自分

で作ってアップする。こういう人々が世界には何千何万人もいて、動画数は

毎日どんどん増えていっているらしいのだ。

 俊介も一度はこのMeTubeに自分自身の動画を上げてみたいと思う。見

ていると、ほんとうにクオリティの高いパフォーマンスを見せる人はごく僅か

で、残りはカスみたいな動画ばかり。だが、そのカスみたいな動画の中に、

キラ星のように稀有な瞬間をとらえた奇跡の動画があったりするから面白

いのだ。俊介には何も特技がない。歌も楽器もダメだし、ダンスも体操も、

コントも漫才もできない。だからカメラで撮影して世界に向けて発信できる

ものなど何もない。だけど何か自己表現をしてMeTubeに乗せてみたい。

俊介は考えに考え続けた。何ができるだろう。ない頭を抱え続けてようや

く思いついたのが、とんでもないアイデアだったのだ。

 俊介は怪しいネット通販で、スパイ用の小型カメラを手に入れた。画質は

劣るが、案外安価で手に入った。タイピンのようなカタチをした小さなカメ

付きのムービーカメラだ。つまり、隠し撮り用。俊介は、自分では何もできな

いのであれば、他人の姿を動画で撮影すればいいのだということに気がつ

いた。俊介は馬鹿だから、他人の写真を無断撮影すると、肖像権やら何や

ら、人権にまつわる困った問題が発生するということにまでは思いが及ば

ない。そんなもの、仮にあったとしても、匿名で上げる動画に、なんの責任

も発生しないとタカをくくっている。

 それからというもの、パソコンの前にいないときには、このスパイカメラを

持ち歩いて、ことある毎にスイッチをオンにする。喫茶店で鼻をほじってい

るおじさん。電車の中で口を開けてお又を開いて居眠りしている女子高生、

酔っぱらって歌いながらふらふら歩いているサラリーマン、学校の授業で

イビキをかいているお馬鹿な大学生、セールに顔色を変えて群がる主婦

……よくよく回りを見渡せば、おかしな人々は結構いるのだ。俊介はこう

いう人々に目を光らせて、日夜カメラを動員するようになった。まだ、これ

といって面白い動画には出会えていないのだが。いまもカメラを片手に

町を徘徊している。昨日は、繁華街の店の前で殴り合いの喧嘩を撮影

できたのだが、これをアップしていいものかどうか迷っている。もっとイン

パクトのある、もっと面白いシーンを撮影して、世界中の人々に見てもら

うのだ。そういう一心で、今日も隠しカメラを構えている。いまもほら、あ

なたの近くで、俊介がカメラを潜めて回しているよ。

                             了


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