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第六百五十二話 時間感覚 [文学譚]

 気がつけばもう十一月。新年を迎えたのも、桜を愛でたのも、つい昨日のよう
な気がするのに、いまやむしろ年末の大晦日の方が近いところまで来ているの
が驚きだ。なんだか月日が経つのが思いのほか早い気がするのだ。
 子供の頃は、一日がすごく長くて、いつまでも遊んでいられた。永遠に大人に
なる日なんて来ないのではないかと思っていた。中学生になっても、いったい
いつまでも勉強を続けなければならないのだろうと思っていたし、高校生にな
ってもまだ、受験勉強は死ぬまで続くのではないかと恐れた。だが、いつの頃
からか、大人になった私は、駆け足のように一年を過ごし気がつけば誕生日を
迎え、どんどん歳をとってきている。いまや、鏡の中の老けゆく顔にため息を
ついてばかりの毎日だ。
 世の中に、鼠時間、象時間、などという、体のサイズで時間の流れが違うとい
う学説を唱える学者がいて、それを信じていた私は、身体の小さい子供と、そ
うでない大人とでは、時間の流れが違うのだろうと思っていた。だが、最近、
大人時間についてネットで検索しているうちに、非常に気になる話が飛び込ん
できた。それは、一人の暇人が書いているブログなどではなく、何人もの知識
人が、同じじことを主張しているのだ。
 曰く時間の流れが早くなっている。その理由はさまざまで、ある人たちは地球
の自転が早まっているという。だが、本当の理由はそんな物理学の話ではなく、
もっと高次元な理由によるというのが主流だ。地球の自転が早まるようなこと
はなく、宇宙の次元が変わろうとしているという。アセッションという言い方
で、すべての生命体の意識が変わり、三次元は四次元を超えて、五次元の世界
がくるのだそうだ。五次元世界にはもはや時間などというものはなく、あらゆ
る存在が公平に存在できる宇宙に変わるのだという。時はいま目の前に迫って
おり、その移行期間としていまは時間の流れが狂っているのだという。
 私にはアセッションも五次元宇宙も、さっぱりわからないのだが、時間の流れ
が早く過ぎて行くことだけは実感できる。こんな文章も、ほんの少し前までは
五分もあれば書き終えていたのに、いまは書きはじめた時に見た時計の針は、
五時間分も動いたことになっている。鏡の前に立っていても、まるで高速度撮
影された林檎が朽ちて行くフィルムを見ているように、みるみるうちに顔の質
感が変わって行くのがわかる。
 思いのほか早く感じてしまう時間の流れを、あなたは実感していますか?
                                                               了

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