第六百五十話 忘却 [日常譚]
おお、忘れてしまうところだった!
オレは思わず呟いた。夢の中で素晴らしいことを思いつくのだが、目覚めた
あとすっかり忘れてしまうのだ。あれ? 何かすごいアイデアを思いついてい
たのに、なんだったっけ? こうなると、大きな魚を逃がしてしまった釣り人の
ようにとても悔しい思いにかられるのだ。だから、枕元に紙とペンを置いてお
き、目覚めたらすぐにメモをしようと思いついていたのだが、それを忘れてし
まうところだったのだ。早くメモをしないと、まるっきり忘れてしまう! 素晴ら
しいアイデアなのに、ああ、忘れてしまう! そこまで考えていたら目が覚め
た。
おお! もう少しで忘れてしまうところだった!
オレは思わず呟いた。夢の中で素晴らしいことを思いつくのだが、目覚めた
あとすっかり忘れてしまうのだ……了