第六百四十八話 下町ルネッサンス [文学譚]
第六百四十八話 下町ルネッサンス
「洗練された下町ロケーションでお洒落なデート!」
チラシに書かれたタイトルを見て権田原は思った。てやんでぃ、何が洗練されたじゃい。こちとらそんなもん聞いたこともない。だいたい、洗練されとらんから下町っちゅうのんじゃないかえ? ロケーションだのお洒落なデートだの、わしらはそういうものにはとぉんと縁がないものだから、いったいこんなところへ来てどうすんだって思ってた。したらさぁ、おれたちの知らない間に、角のところの煙草屋がよ、エライことになってやんのな。外から見たところは、何ら変わってねえのによ、なんていうの、内装? 中がカフェみたいなものにすり替わってるらしくってよ、大正浪曼珈琲かなんか名前付けちゃって。ええ? 煙草屋の婆さん、どこいっちゃったんだい? それがこのチラシに乗ってるデートスポットなんだってよぉ。どう思う? 下町って言ったら下町だろ? あんなもん出来たら、下町じゃねえって。ま、それで若い姉ちゃんがくるんだったら有りだけどよ、デートっつうんだから男付きだろ? チッ。そんなもんよ、いらないわな。ところでそっちはどうだい?
どうだいっていわれてっもよ、こっちはこっちで、エラいことになっとるんだわ。こっちは、高級店が並ぶ銀座だぜ。その銀座に最近できてるのがな、なんだと思う? 「安くて気軽な高級ブティック」だぜ。なんだそりゃ。安くて気軽なだぜ。ま、それはわかるが高級ブティックだぜ。どっちなんだ。はっきりしろってな。その隣にはよ、「お気楽大衆フレンチ」だってよ。
ま、どっちもオレには興味ないがね。そんなことよりよぉ、浅草の友達から聞いたんだが、あそこの小屋でさ、面白い興行があるって。今度アメリカからすごいのが来るんだってよ。何かよくわからないが、犬人間と人間犬のコラボレーションだってさ。なんかよくわからんが、ちょっと不気味に見たい気がするんだが、どうだい?
了