第六百五十五話 こたつ人 [可笑譚]
「おや、お宅も出しましたか、とうとう」
「ええ、ずいぶん寒くなりましたからねえ。もう、こたつがないと、寒くなり
ましたから」
「そうですね、ついこのあいだまで暑いなあって言ってたのが嘘みたいで」
「しかし、お宅は立派な家具調のこたつを買ったって言ってませんでした?」
「ええ、去年、そういうのを張り込みましたけどねぇ、もう女房に独占されて
しまって」
「あはは、そうですか。やっぱりそうなりますよねぇ。あれはゆったりしてま
すし」
「おや、こちらのお宅はまだこたつ、出さないんですか?」
「ええ、まぁ。あれ、出しちゃうとね、もう出られなくなるじゃないですか」
「そうなんですよねぇ。もういったんこたつに入ったら最後。すっかりこたつ
人間になってしまう」
「そうそう、こたつに入ったままずるずると」
「でしょう。だから私はこたつ、買ってないんですよ。まぁ、床暖房が入って
るから、それでいいじゃないかと」
「そうですか。でも床暖房はやっぱりなんだか頼りなくないですかねぇ」
「うんうん、私もそう思うな。床暖房はこうやって潜り込めないし」
冬になると、通勤電車は一層混雑する。みんなこたつを背負って電車に乗る
からだ。こたつ談義をしている二人も、亀のようにこたつを背負っての通勤第
一日目。暖かいが、それはそれで大変なのである。
了