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第五百二十三話 蔵シリーズその1ーお披露目 [謎解譚]

 毎年十二月になると、常得意を招いて、蔵出し吟醸酒のお披露目を行う。十

月に仕上がったその年の酒が、そろそろ落ち着いた味わいになる頃だからだ。

毎年この催事は好評なだけに、今年は失敗するわけにはいかない。義父亡き後

を受け継いだ、入婿の私になってから味が落ちたでは困るのだ。

 一年前に義父が行方知れずになって、私はその捜索を専門家に任せると共に、

義父に代わって酒造りに専念した。酒蔵の暖簾に傷をつけるわけにはいかない

からだ。一方で、この酒の味にふさわしい塩漬け製品を開発した。杜氏として

の義父の技に私自身のオリジナリティを添えたかったからだ。酒造りは既に技

法を学んでいるから、温度や時間を気にしながら、愛情を込めて発酵させれば

出来上がる。だが、塩漬けは初めてのことであり、大変に世話がかかった。毎

日様子を見、塩加減を計り、そうして酒が出来上がる頃にはちょうどよい塩梅

になってきた。これで準備は万端に整った。

 お披露目の日、酒蔵にはいつもより少し多めの八十人もの常得意客が訪れた。

蔵出し酒の評判も上々、そして新しい品物である肉の塩漬けも大好評のうちに

蔵は熱気で溢れていった。三時間も過ぎて、そろそろ開こうかと思った矢先。

「きゃぁぁぁ!」手伝いの悦子が叫び声を上げた。すっかり売れ切れてしまっ

た塩漬けのお代わりを頼まれて、塩漬けの樽の蓋を勝手に開けたらしい。そし

て、そこに変わり果てた義父の姿を発見したのだった。                          

                      了

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