第五百三十五話 慰霊碑 [怪奇譚]
世界遺産にも指定されている霊場、高野山。その中にはとある宗教の総本山
がある。その宗教にまがいなりにもの属している家系であるのに、今まで参拝
しなかったのが不思議だ。一説によれば、その寺院へは、縁がつながらないと
行くことができないという。縁がない人間が行こうとしても、必ず何か行けな
い理由ができていけなくなってしまうのだという。
私の場合は、一度行ってみたいと思いつつも、本気で行こうとしなかったの
であるが、今回は重い腰を上げた結果、問題なく参拝できたので、おそらく、
幸いにもご縁があったということなのだろう。
友人たちと連れだって本堂を参拝した後、参道をぷらぷら歩きながら、様々
な故人の墓に黙礼して通り過ぎる。大物戦国武将の墓や、この宗教を布教した
修行僧の墓がひっそりと存在しているのも興味深いが、一方では大手企業の名
を冠した慰霊墓もまるで別荘地のように数多く置かれているのも不思議な気が
した。
そうした様々な墓と並んで目を引いたのが、阪神淡路大震災で亡くなった人
々を祀った慰霊碑だ。誰がどのようにして建てたのかわからないが、立派なも
ので、聞けば毎年慰霊祭も執り行われているという。そこから少し離れたとこ
ろにはまた、最近の東北地方大震災の慰霊碑予定地という区画が設けられてい
て、こういうところで遠く離れた地で亡くなった人々を祀られるということに
は心打たれるものがあった。
驚いたことに、そこからさらに離れたところに発見したものだ。それは人目
につかない場所であるからなのか、あるいはその存在がぼんやりとして輪郭が
明瞭でないためかわからないが、最初は気がつかなかった。だが、先の二つの
慰霊碑を見つけたおかげで、同じような慰霊碑がほかにはないかと探したおか
げで見つけてしまったのだ。
そこにはまだ慰霊碑は建っていない。あくまで予定地であるのだが、しっか
りと区画が確保されており、小さな板札にはこう書かれてあった。「東海南海
大震災慰霊碑予定地」。そしてさらにその隣にも次の慰霊碑予定地として・・・・・・。
了