第五百二十四話 蔵シリーズその2ー鍵 [怪奇譚]
扉さえ閉めれば大丈夫だ。俺はそう考えた。中には、あの忌まわしい化物ど
もがうようよしている。奴らはこの蔵の中にだけいるのだ。蔵の奥のどこかに、
異次元につながる裂け目が生まれてしまったらしいのだ。奴らをここから絶対
に出してはいけない。そんなことをすれば、あっという間にあの化物どもは世
界中に蔓延してしまうだろう。だが、この扉をロックしさえすれば、俺は世界
を救うことが出来るのだ。
蔵の扉は、自動ロック式になっている。扉を閉めたら自動的にロックがかか
る。そして、鍵を持っている者だけが、外からでも中からでもロックを解除で
きる。俺は、外から扉を閉める段になって、鍵はどこだろうと気がついた。し
まった。中に置き忘れたようだ。奴らは、あの鍵を見つけて、きっと扉を開く
だろう。なんとしてでも鍵を外に持って出なければ。俺は、急いで扉を開き、
蔵の中を探した。ない。いつも置いてあるはずの場所にない。そうか、さっき、
慌てていて勘違いしていたが、鍵は俺のバッグの中だ。そしてバッグは扉の外
だ。しまったと思って、扉まで引き返そうとしたそのとき。
がちゃん!
扉の重みで開けておいた扉が閉まった。
がち!
自動的にロックがかかる。俺は中に閉じ込められてしまった。鍵は外。
おぅい!
俺は奴らに気づかれないように小声で叫ぶ。
おおぃ、誰か!
だが、奴らは俺に気づいた。
むぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!
奴らの臭い息が俺の鼻先にかかる。
了