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第五百三十一話 MAKE猫 [怪奇譚]

「MAKE猫」

 ダンボール箱の蓋のところにそう書いてある。箱の中で、何か小さな生き物

がごそごそ動いているのがわかった。また誰かがこの公園に猫を捨てていっ

たのだ。かわいそうに、どんな猫が入っているのだろう。そう思って閉じられた

ダンボール箱の蓋にそっと手を伸ばす。

 公園や道端でクラス野良猫が、自然繁殖して困る。そんな苦情が町内会に

提出されたのと、ボランティアで猫の世話をする人が現れたのは、ほぼ同じ頃。

ボランティアの人たちは、グループで活動している人たちと、個人で猫の世話

をしている人と、さまざまであるが、野良たちに餌を与え、寝床をつくってやり、

糞の始末をするという熱心さにはかわりはない。それだけではない。成猫を捕

獲して、動物病院に連れて行き、ワクチンを与えたり、去勢手術をさせたりとい

うことぉ、自腹でやっているのだ。これ以上不幸な猫が増えないようにと考えて

いるからだ。それでも、町内には、猫に餌を与えている人がいて困る、という苦

情を出す人は相変わらずいる。しかし、そんなことよりもっと質が悪いのは、夜

中にわざわざ猫を捨てに来る人だ。自分が住んでいるエリアでなければ、動物

を置き去りにしてもいいと思っているのだ。

 私はこういう猫のボランティアには参加していないが、二匹の子猫を引き取っ

て飼っている。だからもう一匹飼ってやるのはちょっと無理かな、と思っているの

だが、ダンボールに記された「MAKE猫」の文字が気になった。箱の中には、愛

らしい顔をした真っ白な子猫が鎮座していて、私の顔を見てにゃぁと言った。

 MAKE猫とはいったいなんなのだ。メイクっていうくらいだから、何かを作る猫?

そんな馬鹿な。メイクといえば、あれだな、メイクアップのことではないのかな?

猫がメイクしてくれるわけはないから、この猫にメイクを施すということか。そうか、

だから白い猫なのか。真っ白だから、飼い主が自由にメイクを施せる、そういう猫

ってことだな、きっと。勝手にそう理解して、家に連れ帰った。

 家には既に二匹の猫がいるので、上手く受け入れてくれるか心配だった。だが、

不思議なことに、二匹の猫は新入りに怒りもせずに、すごすごとそれぞれの居場

所に引っ込んで相手にしようとはしなかった。水と餌を与えると、子猫は臆するこ

ともなく、ガツガツと口にした。子猫が入っていたダンボール箱を折りたたんで捨

てようとしたら、中からひらりと宝くじ券が数枚出てきた。はて、もしや。当たり券が

入っているのかと念のために調べてみたが、ただの外れ券だったので、実は少々

がっかりした。捨てた人が罪滅ぼしに幾何かの当たり券を入れたのではと思った

のだが。

 白い猫は美しい。アルビノなのかどうか分からないが、瞳はブルーで、シャムが

入ってるのかもしれないなと思わせた。この白い毛並みにほんとうにメイクをした

らどうなのかな、と考えてみたが、さすがに実行する気にはなれなかった。飼い猫

をオモチャにするなんて。

 宝くじが一緒に入っていたことをゲンを担いで、私も宝くじを買ってみたが、まった

く当たりなし。百円すら当たらなかった。それだけではない。その頃、仕事の調子も

よくって、様々な入札の仕事に参加させてもらい、勝ち続けていたのだが、白猫が

来たあたりから、勝ちがなくなった。賭け事などほとんどしない私だが、気晴らしに

行うパチンコも、友人と握りあるちょっとした賭けも、ジャンケンでさえ、一度も勝て

ない。以前は、五分五分で勝負していたのに。

 なんで急にこんなに不調になったのかな? そう考え続けていて、メイクと名付

けた白猫に思いが重なった。あれ? メイク、MAKEって、もしかしてメイクではな

くて”マケ”と読むべきだったのでは?あの猫は、もしやマケ猫なのではなかった

のだろうか? そう思い出すと、次第にそのような気がしてきた。化け猫ならぬ

負け猫。猫は昔から奇妙な能力を持っているのではないかと考えられて、化け

猫伝説が生まれた。同じように、決して勝てない負け猫というものがいてもおか

しくない。そんな奇妙な考えにとりつかれたが、既にメイクは家族の一員。だか

といって、いまさらまた捨ててしまう気にもならず、ずっと飼っている。そしてな

んの因果か、あの日以来、私は”勝つ”ということから一切遠ざかってしまった。

                                 了


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