第五百二十五話 蔵シリーズその3−遺品 [空想譚]
父の遺品は、しきたり通り、先祖代々の品々が収まっている蔵に入れること
になっていた。当家の歴史は古く、いつ頃建てられたのか分からない大きな蔵
が裏庭にあるのだ。だが、蔵に立ち入ることが出来るのは、当主一人だけと決
められていた。父が亡くなって、いまや当家の主となった私は、晴れて蔵に脚
を踏み入れることが出来たというわけだ。
蔵に入ると、オートライトなのか、全体がほのかに明るくなった。湿気と黴
臭さが充満する蔵は、外から見る以上に広く感じる。父の遺品を収める場所を
探して、蔵の中を探った。古い時代の建物とは思えない質感の壁や天井。板で
もなく土でもなく、つるりとしてシンプルなのだ。壁面にはいくつもの小さな
扉が並んでいて、ロッカーになっているらしい。その扉に、祖父さんの名前を
見つけた。そしてその右が空いているらしい。なるほど、ここに収めろという
ことか。祖父さんの左方にはずらりと御先祖さまの名が連なっている。さらに
その奥に扉を見つけた。俺の好奇心が扉を開けさせる。扉の向こうは……
中央部に椅子、その前面にいくつものボタンと大きなパネル。なんだこれは?
どうみてもSF映画にでも登場する宇宙船の操縦席だ。俺は呆然としながらも、
中央部の椅子に静かに座ってみた。すると突然、前面パネルに天体図が浮かび
上がり、すべてのボタンが色彩美しく点灯した。そして人工ヴォイスが響いた。
「準備ガ整イマシタカ? 出発シテモヨロシイデスカ?」
了