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第五百二十六話 蔵シリーズその4ー覗き窓 [文学譚]

 何か悪さをする度に、蔵に閉じ込められた。天窓の明かり取りがあるだけの

この空間は、昼間でも電灯を点けなければ暗い。子供心に最初は暗闇を恐れた

が、何度も何度も閉じ込められるうちに、ここが自分だけの基地のよう思えて

きて、怖くもなんともなくなった。むしろ楽しみにさえなったのだ。アリスが

穴の中に落ちていったように、僕も蔵の闇に落ちていった。その先には、宝探

しや、虫王国の秘密、からくり屋敷、妖精の森、知識の航海など、さまざまな

冒険が待っていた。僕は、蔵に閉じ込められる度に、何かしら新しい発見をす

るのだった。

 ある日、蔵のいちばん奥の棚の下、さらに奥の方に、この蔵そっくりの箱を

発見した。箱というか、たぶん模型だ。屋根がついていて、白壁の周りは墨色

の板の袴で囲まれている。扉は閉じられ錠がおろされている。模型の中を覗け

るのは、この蔵と同じ天窓だけだ。僕は天窓から中を覗いてみた。が、真っ暗

で何も見えない。そこで、僕自身も蔵の天窓から明かりが差している真下に移

動して、その明かりで中を見ようとした。ところが、模型の天窓を覗こうとす

ると、天窓の明かりが暗くなる。模型から目を外すと明るい。また覗き込むと

暗くなる。おかしいなと考えているうちに、もしやと思った。だが、模型を覗

き込む僕は、同時には天窓に目をやることは出来なかったのだ。

 いまでも思う。あのとき、僕は、天窓から僕自身を覗き込んでいたのではな

かったろうかと。

                          了

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