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第五百三十四話 芸遊詩人 [空想譚]

「誰もが気にもかけないようなことに気になって仕方がない、そういう人間が

詩人なのです」

 すでに長らく詩人として生きてきた長老がそう言った。長老は、この国を憂

い、より多くの詩人が生まれることを願っている。だから村の人間を集めて、

詩の創作を説いているのだ。世界の中で最も美しい国と、より多くの詩人が住

む国であるとも言った。別のときにはこうも言った。ほかのものが笑っている

ときに泣く、ほかのものが鳴いているときに笑う。詩人とは、皆に迎合しない

人間であると。

 つまりそれは、万人と同じ感覚の持ち主であっては詩人足りえないというこ

と、奇人変人の類いであってこそ芸術家でありうるということを指しているよ

うに、私には思えた。確かにそれは真理かもしれない。芸術家と呼ばれる人の

多くは奇行とか偏屈とか、そういう話はよく聞く。だが、人に理解され、共感

されるのは、むしろ万人と同じ普通の感覚を持った人間ではないのだろうか、

そのようにも思える。隣の人間に理解されない人間が、どうして多くの人間に

共感される芸術を生み出すことができるのだろう。

 だが、得てして人は、見たこともない人間とか、経験しえない事象に興味を

持ち、心動かされる、それも真実だ。

 だとすれば、人間とはなんと矛盾に満ちた存在であることか。

 私はごく常識的な普通の人間だ。だから、芸術家にはなれないだろう。だが、

他の人間とは少しばかり違う面も持っている。それなら私も芸術家になれるの

だろうか? 答えのない自問自答を繰り返しながら、私は遠いふるさとM80

星雲に思いを馳せる。

                        了

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