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第七百三十話 テロ [幻想譚]

「ここはいまから我々が占拠する」

 どこからか突然現れた赤い種族がそう言った。いつもと変わらない調子で仕

事に精を出していた黒い種族の多くは、しばらくはなにが起きたのかわからな

いままい隠れて様子を見ていたが、何人かは本部からの使者が来たのかと思

い込んで彼らに近づいていってしまったために、拉致されて人質にさなってしま

った。

「おいっ、我らには神が付いているのだ。なぜこんな狭いところに閉じ込められ

て暮らさねばならないのだ。我らにはもっと自由があるはずだ。我らの神こそが

万能の神だ。奴らに支配されなければならない理由なんてない!」

 なにかを信じている者は強い。どんな困難にも立ち向かえる力が神秘の中か

ら引き出せるからだ。

「いいか。俺たちはいまからここを破壊して外の世界に飛び出るのだ。そして奴

らから支配権を奪い取り、この国を取り戻すのだ。協力する奴は連れて行って

やる。そうでない奴は人質か、さもなければ命をいただく。わかったか!」

 そう言うと、赤い種族の首領と見られる者が赤い種族を選別しはじめた。お前

は仲間だ。お前は敵だ。その根拠は思想であり宗教だ。黒い種族と赤い種族は

もともとは同じ種族でその古い歴史は共通しているから、ほとんどの者が仲間

だと言えるのだが、中には今の生活に満足し過ぎて、異なる歴史を作ろうとして

いる者もいた。彼らは闘争よりも平和を望み、ここでの生活を気に入っている。

「君たちの言うことはよくわかる。だけど、世の中を暴力で変えようなんて、それ

は神に冒涜することにもつながるのではないかという考えも成立することは、

否めないのではないのか」

 こんな発現をしてしまう新世代の黒い種族はほとんどが敵だとみなされてし

まった。敵とみなされた連中は人質にされ、彼らを盾に赤い種族、そう、いわ

ゆるテロリストだが、彼らは移動をはじめたが、そのとき、天からとんでもない

ものが舞い降りてきた。大きな指だ。

「ママァ。僕の観察箱に変てこな大きな赤い蟻が迷い込んでいるよぉ」

「まぁ、アル。どこから来たのかしらね」

「うん、わかんないけど、お庭からじゃないかなぁ」

「で、一緒に飼うの?」

「嫌だ。僕は赤い大きな蟻なんて気持ち悪いし嫌いだ。黒いのが可愛いの。だ

からいま、指で潰してやったよ。簡単に出来た」

「まぁ、本当なの? 生き物の命はそんなに簡単に奪ってはいけないよ、でも、

その観察箱はお前の宝物だもの、仕方ないのかしらね、アル・ジュリア」

 こうして、アルの観察箱にまた平穏が訪れた。

                                      了


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