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弟七百十九話 やさしさの理由 [文学譚]

 みんなやさしくしてくれる。昔からそうだ。父も母もとてもやさしかった。

世間は厳しいなんて教訓を説く人もいたけれども、私にはとてもそうは思えな

い。学校に通っているときも、会社に入ってからも、嫌な人は一人もいない。

少なくともそう思っていた。この日までは。

 五十を過ぎて、父も母もこの今世を去って、私は天涯孤独になってしまった。

だからというわけでもないが、なんとなく生活にもゆとりが生まれて、ボラン

ティア活動に参加することになった。知的障害者を中心に、さまざまな障害を

持つ人たちとその家族による自助団体だ。なぜその団体を選んだかというと、

単に健常者のボランティアが少なくて困っていると聞いたから。

 はじめて参加した集会には、二十数名が集まっていた。受付でメールをした

ボランティア希望者であることを告げて「何かお手伝いしましょうか」と訊ね

た。すると、健常者である受付の男性がとてもやさしく答えた。

「ありがとうございます。でも、今日は人数が少ないので、大丈夫ですよ。皆

さんと一緒にあちらの席で楽しんでください」

 しばらくすると代表者の挨拶がはじまり、その終わりに私が紹介された。今

日の初参加は私だけのようだ。

「今日はお友達が一人増えました。あ、関さんと同じ障害を抱えてらっしゃる

方ですね。皆さん仲良くしてあげてくださいね」

                        了


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