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弟七百二十八話 哀しみを知らない女たち [文学譚]

 テーブルの上のキャンドルが微かに揺れている。とてもカジュアルなお店な

んだけれども、こういう演出がちょっと洒落ていて気に入っている。私たち五人

はときどきここでアラフォー友だちの絆を確認し合う。 「慶子はどうなの?」

 真知子に聞かれて慶子は曖昧に笑いながら答える。

「どうって。相変わらずよ。崇は週末にうちに来るけど、自宅も滞りなく」

 慶子の自慢の彼氏は妻子持ちだ。もともとは仕事仲間だったが、いつしか恋人

付き合いになっていた。仕事の出来る頭のよい男で、家庭も大切にしているとい

う。そんな妻子持ちなんてやめときなよと言っても、あんないい男はもう見つから

ないからと付き合い続けている。でも、将来はどうするつもりなのだろ。家庭と愛

人の両立なんてずるいと、私は思う。

 真知子は真知子で二人の家庭持ちを二股かけている。イケメンの祐介は一時

は離婚すると騒いだのだが、真知子に往されて元の鞘に落ち着いた。晃は身体

の弱い妻と半分別居状態で、残りの半分は真知子のマンションへ猫の世話をし

にやって来る。どっちなの、どうするつもり? 聞くと、雄介とはもうほとんど切れ

ている。晃はもうすぐ離婚すると言ってるし。その晃とも、去年は別れたと言って

たはずなのに。

 先月まで付き合っていたバツイチのいい加減さに呆れたと、未だに愚痴をこぼ

している和代は一人で居酒屋を切り盛りしているのだが、いちばん仲良しの采子

もまた宙ぶらりんだ。采子は五人のうちでただひとりの結婚経験者だが、その旦

那とは別居中だ。離婚を前提の別居だと言ってもう五年にもなる。詳しくは言って

くれないが、どうやら金銭問題が絡んでいるらしい。采子は美人なので、別居して

いる間に少なくとも三人の男と付き合ってきた。

「結局、不倫じゃないのはあなただけね、葉子」「ほんとう。葉子がいちばんしあわ

せ者だわね、私たちの中じゃ」

 言われた私は心の中でつぶやく。そうなるのかなぁ。でも、将生がほんとうはゲ

イだなんて言えないなぁ。それでも愛してくれてるっていうのも複雑だし。将生が

そうだとしたら、私もそういうことなのかしら。

 目の前で炎が五人の女の顔をオレンジに染めている。そのせいか、揺らいでい

るのはキャンドルの火なのか、それぞれの心なのか、わかりにくくしている。                                                                                                了


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