弟七百十話 参りました [日常譚]
大晦日に紅白歌合戦を見てから、除夜の鐘を聞きながら初詣に出かける人が
多いようで、この神社でも元旦早々からお参りをする人は多い。だいたいみん
な毎年同じ神社を詣でることが慣習になってるからか、同じ顔ぶれと出会うこ
とが多いのだ。見渡せば、知ってる顔が……。
おお、いたいた。明けましておめでとうございます。いやいや、いつ見ても
恰幅よくて、裕福そうですねえ、大黒様は。ええ? ああそうですか。今年は
その小槌を振って景気をよくしてくれると? お願いしますよ。はい、三月に
は合衆国がヤバいっていう噂もあるんでねぇ、大判振る舞いでお願いしますね。
あ、そちらは……いいんですか、神殿になぞ来てて。まぁ、その昔は神仏合体
なんていう宗教もあったようですけど、ご本尊までそんなことでいいんですか、
お釈迦様。なんです? ああ、やっぱりお正月にはお宮参りをしておかないとで
すって? そうですか、まぁ、普段はいつもお寺にいらっしゃるからたまには違
う空気を吸いたいんですね。そうでしょうね、ええ、ええ。
まぁ、ようこそ、こんな遠いところまで。外国の方にはお正月なんてないです
ものね、クリスマスにメリークリスマス&ハッピーニューイヤーですものね。あ、
そうですか。新年は暇だから? そうでしょうね、いやいや遠慮なされずに、ど
うぞゆっくりお参りくださいな、キリスト様。わかります? お参りの仕方。ま
ず、二礼一拍ですよ。ああ、毎年参っているからわかってるって? こりゃあ失礼
いたしました。
なんだ、仏様や神様が知り合いだなんてお前は誰かって? いやいや、私はそん
な名乗るほどの者でもありませんから……まぁ、いいじゃありませんか、そんなこ
と。嘘つき? 何が。そんな有名人馬鹿裏と知り合いなはずがないって? そうで
すか。おかしいですか。私が彼らと友人だったらおかしいっていうのですか。まぁ
別にそう思われていてもいいですけど。だからお前は誰かって? そんなことどう
でも……馬鹿馬鹿しい。どうして私があなたに名乗らなきゃぁいけないんですか。
まぁ、いいか。知らないと思いますけど、私は弁天財っていいますけどね、数少な
い友人たちと、年に一度ここで出会えるんですよ。まぁ、あなたに言う必要もない
ですけどね、そういうあなたはどなた? ま、どうでもいいですけど。顔の広い私
でも知らないなぁ、あなたのことは。どちらの神様でしたっけ……。
了