SSブログ

第七百十三話 初出 [文学譚]

 初出社。今年の休みは長かった。いつもよりもずっと長い印象だったなぁ。

ぼんやりと過ごしてしまったから、まったく正月ぼけ状態で、とても仕事にい

く気にはならない。それでも、そういうわけにもいかず、なんとか重い尻をも

ち上げて家を出たのだが、世間ではすでに先週から挨拶周りをはじめているよ

うなサラリーマンもいて、ご苦労様だなぁと思う。早々から案外にぎやかだな

と思いながら会社に向かい、久々に出社した。ところが、会社の中はがらんと

して誰もいない。まぁ、みんなのんきだなぁ、初日くらい遅刻しないでちゃん

と来いよと思いながらデスクについたが、いつまでたっても誰も出社してこな

い。はて、どうしたことか・まさか! もしや弊社はこの不況のあおりを受け

て、正月休み中に倒産したのか? 不安が募ってきたころに、守衛が見守りに

やって来た。

「ご苦労様です。お休みなのに、大変ですね」

 言われて、え? と思ってカレンダーを見た。

「今日って……月曜日ですよね?」

 守衛に声をかけると、

「はぁ? 今日は日曜日ですが」

 しまった! 一日間違えた! 

 そう思ったのが昨日のことだ。私はどうやら一日間違っていたようだ。正月

ぼけもここまで来れば立派なものだ。慌てて会社を出て、せっかくだから朝か

ら繁華街をうろつくが、さすがに朝からやっている店などない。仕方がないの

で公園で一服して家に帰った。馬鹿みたいに、一日休暇を損したなぁと思いな

がら家でくつろいで、今日は間違いなく月曜日だよなと念のために確認をして

から会社に向かった。本当に馬鹿らしい。昨日はどうかしてた。

 やはり世間も本格的に稼働するのは今日からのようで、昨日以上に街は平常

を取り戻していた。昨日と同じ時間に会社に入ると、やはり今日は大半はもう

出社してきていて、社内はすでに活気に包まれていた。よかった、つぶれてい

なくって。私は安堵を感じながらデスクについて仕事を始めようとしていたら、

早々から仕事をはじめていた課長が妙な顔をしながらやって来て私に声をかけ

た。

「あれ? あなたは、継続雇用でしたっけ?」

 しまった。本当にぼけていた。私は昨年末で定年退職したのだった。

                           了

 


読んだよ!オモロー(^o^)(5)  感想(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。