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第六百四話 お笑いスーパーポッドキャスト! [可笑譚]

こんにちは、ミズモです。
こんにちはぁ、ワラです。
スーパーヒー・ローズ!
この番組は、素人のくせに何やってんだ? 馬鹿じゃないの? という目に耐
えながらも、面白いことをやりたいというコンセプトで配信していますー!
いやいやいや、前回はえらいメール読んでしもうたなぁ。
えらいメールって? 何かあったっけ?
何かあったやないでぇミズモ君。おっかしな投稿メールやったん覚えてない
の?
ああ、あれ? 何かあの、お笑いは笑い固有の領土やないでぇ、っちゅう。
そうそう。あれ、最初はお笑いってええやんとか書いてたから、ええ調子で
読みはじめてしもたけど、途中からなんか、お笑いって笑いさえ取れたらそ
れでええのんか? みたいなわけのわからんこと言い出して・・・・・・
そんならワラが止めてくれたらよかったのに。俺、読みはじめたら止まらへ
んし。
そやろ? 俺かて聞きはじめたら止まらへんし。
で、どうなった?
どうなったって、ミズモ君、君が最後まで読んでしもたんやがな。
ああーーーそうやったかなぁ?
そうでしょ? あれ、なんやきっついで。笑いさえ取れたらええんかっていわ
れてもなぁ。
俺らはその笑い取るのにいっぱいいっぱいやのに。
そうやんか、俺らは笑いとるのんだけでいっぱいいっぱい・・・・・・アカンがな。
そんなことではあかん。笑いも取れて、なおかつやなぁ。
笑いも取れてなおかつ? ・・・・・・なぁ、なおカツって、それ旨いんか?
そりゃぁお前、なおカツっちゅたらな、ほら、まい泉っちゅう有名なカツの店あ
るやろ? 
ああ、なんか聞いたことあるなぁ。
そのまい泉よりも旨いのがなおカツって・・・・・ちゃうがな!
ほんで何?
笑いが取れてなおかつ、カツサンドも旨い。
おお!
 ・・・・・・ちゃうがな! もう、わからんようになってきた。・・・・・・あ、そや
笑いも取れてぇ、なおかつ皆が幸せにならなあかんと。
ほぉ。お前いつからそんなんなったん?
俺? 俺昔からこんなんやで。それに、俺が言うてるんちゃうし。あのメール
やし。
あ、ああ、あのメール。それで? 
笑いだけ取れてもあかん。その笑いが人々の気持ちを和らげてな、幸せな
気持ちにならなあかん。
それで、世界中が幸せに平和にならなあかん! そない書いとったわ。
なんや、ミズモ君、ちゃんと覚えてるやんか。
それで?
それでて、もう忘れたんか?
そうや。忘れた。世界中が平和にならなあかん!! とこしか知らんねん。
・・・・・・まぁええわ。そやからな、世界中が幸せに平和になるためには、俺
らの笑いが俺らだけのもんやったらあかんって言いよんねん。
ああ、なるほど。それで、笑いは笑い固有の領土やないって?
そういうことなんかなぁ。よぉわからんけど。
なぁ、なんや表が騒がしいことないか?
えらいこっちゃ。笑いを主張する奴らが千人も集まってきてるらしいで。
ど、どないする?
どないするって、あいつら鎮めなあかんなぁ。
鎮めるっていうても、暴徒やろ? 俺らが鎮められてしまうで。
何言うてんねん。俺らはスーパーヒー・ローズやで。
だからなんや。
けじめつけなあかんやろ。俺らの話でみんなが騒いでるんやろ?
そうかなぁ・・・・・・そんで?
それで・・・・・・俺ら、もっと飛べるはずやで。
飛べるってお前・・・・・・まさか。
まさかってなんや。
飛びます飛びますって大先輩のギャグを・・・・・・
あほか。そんなことせえへんわ。
ああ、よかった。ギャグでも飛ばすんかとおもた。 
まぁ、ギャグも飛ばすけどな、俺らスーパーヒー・ローズは、もっとすごいと
こに飛ばなあかんのとちゃうか?
すごいとこに飛ぶ?
そうや。あのメールの通りや。俺らは笑いで世界中を幸せに平和にせなあかん
ねん。
そうかぁ、笑いでブッ飛ぶっちゅうことやな。 
そうや。スーパーっちゅうことは、空も飛べるんやで。
と、飛べる? ほんまか! 
ほんまや。知らんかったんか。
嘘やぁ~そんなん、空なんか飛べるわけ・・・・・・
シュボッツ!
あ、ワラさん・・・・・・なんで一人で、そんな・・・・・・ほな俺も。
シュボッツ!
お笑いの二人、どっかへ飛んで行った。
                                了

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第六百三話 憑依 [怪奇譚]

 愛する息子は布団の上に横たわったまま既に息をしていない。妻があの子の

命を奪い取ったのだ。次に妻は目を覚ました私の上に乗りかかって、口内に何

かを注ぎこもうとするかのように鼻をつまんで口を開けさせようとした。私は一瞬

何をされているのかわからなかったが、寝ぼけた頭が覚醒してくると同時に、横

たわっている息子の姿を目にし、妻がしようとしていることを咄嗟に理解した。私

は怪しく光る妻の喉元を凝視しながら首に手をかけた。力では私の方が大きく上

回っている。抵抗してもがく妻に掴みかかって、体制を逆転させ、妻に馬乗りにな

ってその首に手をかけた。妻の首の辺りにとどまっていると思われる怪しい何か

を絞り出すために、首に手をかけて思いっきり締め上げた。暴れる妻は苦しそう

な声を何度もあげたが、喉に引っかかっているそれは出てこない。口の中に手を

突っ込もうとしたが、私の手が大きすぎて妻の口に入らない。今手を離すと、また

体制が逆転してしまうかもしれない。私はさらに力を込めて美しい妻の首を絞め

た。妻はぐぅと言ったきりぐったりとして動かなくなった。私は警戒した。妻の首の

辺りにいるはずの何者かが出てくるんじゃないかと思ったからだ。だが、妻の口

からは何も出てこず、しばらくしてから透明な液体状のものが流れ出た。その液

体が人間のものではないことはすぐにわかった。見ているうちに蒸発して影も形

もなくなってしまったからだ。妻の中にいた何者かは、妻の死と同時に死んでしま

ったのだ。

 なぜこんなことになったのかまったくわからない。ただ、異変らしきものはあった。

昨夜、食卓に置いてあった赤い怪しい光を帯びた不思議な物体だ。妻が言うには

息子が近所の公園で見つけたらしい。妻が息子を保育園に迎えに行った帰り道、

近所のマンション建設を控えて空き地になっている土地で赤い光を放っているの

を見つけた息子は、あっという間に走って行き、手に持てる大きさのその石を拾っ

て帰ったそうだ。妻は少し気味悪く思ったが、息子が拾ったそれをみると、石にして

みればなめらかで割合いきれいな物体に見えたので、子供が忘れていった玩具の

部品かなにかだろうと思って持たせたままにしておいたという。食卓の上にそれを

見つけた私も、息子の玩具だと思って気にも止めなかったのだが、怪しい光が不思

議に思えて妻に訊ねたのだった。

 朝、全てが終わってからひとり呆然として食卓に座って妻と息子の遺体を見つめ

ていた。腹が減った。冷蔵庫から牛乳と食パンを取り出して、何も考えずに口に入

れた。そのとき、夕べからあるあの赤い石が目に入った。石はもはや赤い光を帯び

ておらず、ただのカプセルになっていた。ちょうど空になったガチャ玉の殻のような

感じだった。昨夜はあれほど奇妙な存在感があったのに、いまはただそこにあるだ

けのゴミ同然の物体だった。私は悟った。この中にいた何かが妻に入り込み、妻の

身体を乗っ取ったのだと。もはや妻と共に死んでしまい、溶けて消えてしまった今と

なっては確かめようもないが、カプセルの中に何かがいたのに違いない。それは

宇宙から来た何者かなのか、あるいは地中から溢れ出た悪魔のような存在なのか。

いずれにしても、妻を操って子供の首を絞めたことには変わりはない。そしてその

次に私をも殺そうとしたのか、あるいは、私の体も乗っ取ろうとしたのか。

 証拠も何も残っていない。今、冷静に部屋の中を眺め、落ち着いて考えてみると、

妻と子供の遺体が示していることは、私が二人を殺したに違いないという状況だけ

だ。愛する妻と子供を私が殺した・・・・・・誰がみてもそう見える。もはや言い逃れは

できない。少なくとも、妻を殺したのは紛れもない私なのだから。

「妻が暴れるので殺した」

 私は誰にということもなく・・・・・・多分現場を発見するであろう警察に向けてそう

書いたメモを残し、家を出た。どうすればいい? どうする? 自分が犯人ではな

異ことは自分がいちばんよく知っている。自首することはできない。自首すれば、

事実しか私にはわからないから、狂人か嘘つき扱いされるしかないだろう。

 どうすればいいんだ。もう、逃げられない。逃げても仕方がない。愛する妻と息

子を失った今、私はもはや生きていく希望も気力もない。ただひたすら何も考え

ずに、私はハンドルを握って車を走らせることしかできないでいた。

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第六百二話 蝉 [日常譚]

 蝉の声が聞こえる季節になると、子供の頃の思い出が蘇る。中国の故郷で、

幼馴染と雑木林の中を走り回っては樹木に止まって叫んでいる蝉にあみを被

せて捕まえた。何しろ広い公園だったし、蝉は無数にいた。捕まえた蝉は、日

本の子供たちは夏休みの自由課題か何かのために標本にするくらいしか用

途がないのだが、中国では違った。蝉は子供たちのおやつなのだ。渓流で釣

り上げた川魚を食べるように、野原に咲いている小花の蜜を吸うように、私た

ちは蝉をつかまえてはその肉を口にした。

 生で口にするわけではない。捕まえた蝉を指で押さえつけて、まず足と羽を

ぎ取って動けないようにする。残酷だなんて言わないで欲しい。日本人だっ

老や蟹を同じようにして、手足をもぎ取ってたべるではないか。あれと同

じだ。蝉は小さいからわざわざコンロにかけることもない。指で胴体をつまん

でおいてライターやロウソクの火で頭の下、胸のあたりをしばらく炙るのだ。

すると香ばしい香りが辺りに漂う。うーん、思い出しただけでも唾が出てくる。

私は蝉の鳴き声を耳にする度に、故郷で嗅いだあの蝉を炙ったときの香ばし

い香りを思い出すのだ。少し炙った蝉の頭をもぎ取り、爪楊枝の先で頭にぽ

っかり開いた穴をほじる。すると、爪楊枝の先に茶色い小さな肉が引っかか

ってくる。それが蝉の肉だ。一食べてみるといい。美味しくて癖になるから。

 今年の夏、私は遂に我慢できなくなり、子供の虫網を借りて近所の公園に

行った。いい大人の女が蝉を捕まえているというのも絵にならないので、でき

るだけ人影が少ない早朝を目掛けて公園に向かった。このあたりの公園は

あまり大きくないので、蝉の鳴き声も少ない。それでも賑やかな鳴き声がす

る樹木を探すと、何匹もの蝉が止まっているのが見つかった。昔取った杵柄

で、虫網を構えて目ぼしい蝉の上にかぶせる。二、三度失敗した後、ようやく

捕まえた蝉を私は手に取って足と羽をもいで、ライターで炙った。みーんみー

んと鳴き騒ぐ蝉はすぐに静かになり、私のおやつとなった。旨い。やはり蝉は

旨いのだ。この美味を夫や子供たちに是非教えてあげたいのだが、夫にそ

の話をすると、頭ごなしに拒否された。やはり虫を食べるという習慣が、日本

人にはわからないのだ。

 食文化は国によって、あるいは同じ国内でも地方によって、随分違う。生魚

を食する日本の食文化を拒否する欧米人もいる。イルカを食べる和歌山の文

化は、海外から大いにバッシングされている。中国やその周辺の国々では、

もっと多様なものを食べる文化がある。そういう食文化は、その土地に暮らし

た人間にしか理解されないのだろう。それでも、私は私の故郷のことを理解し

てもらいたいから、夫にも蝉の美味しさを知ってもらいたいと思ったのだが。

でも、考えても仕方がない。嫌なものは嫌なのだろう。

 それならば、ほかにも食べたいものがある。日本人になってからは口にした

ことのないあの美味しい肉の味を私は思い出していた。そうだ、あれなら夫だ

って食べられるかもしれない。そう思うと、私は嬉しくなって、すぐにでも獲物を

探しに行きたくなった。夫に与える前に、私自身が食べてみたい。食べて子供

の頃住んでいた故郷を懐かしみたい。でも、どうやって捕まえたらいいんだろう。

いろいろ考えた挙句、私はロープとバット、獲物を入れる大きな袋を携えて、近

所の公園に向かった。

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第六百一話 熱帯夜 [空想譚]

 暑い。ベッドの中で毛布もかけずに裸同然といった姿で横たわっているのだ

が、息をしているだけでもう身体がじっとり濡れてくる。天井を見ている額にも、

いつのまにか汗粒が浮かんでいるのだ。時おり、開け放った窓の網戸を通じ

てそよ風が入ってくるといささかほっとする。隣で眠っている妻や子供も、度々

寝返りをうっている。暑くて寝苦しいのは自分だけではないのだ。

 ジークジークジーク。窓外から聞こえてくる虫の鳴き声を聞きながら思った。

あの虫はなんという虫なんだろう。昔はあんな鳴き方をする虫なんていなかっ

た。たぶん、ここ数年の間に南方から北上して来た昆虫なんだと思う。ここ数

年来、異常気象といわれてきたが、今年の夏は一層それが進んだように思う。

ニュースでもそう言っていたではないか。地球規模で起きている温暖化に加え

て、台風のコース変化に伴うフェーン現象、海流の変化、どれもこれもがこの

国を暑いエリアに変えてしまっているようだ。一昨年は南方の毒蜘蛛が日本に

も生息するようになったというし、海では何回にしか住まないマンボウをはじめ

とする熱帯魚が青森あたりでも捕獲されるという。きっと窓外で鳴いている虫も

フィリピンかどこかでは定番の虫なんだろうと思う。

 このままこの暑さが続いたら、国中の人間の健康が損なわれてしまうかもし

れないという。だが、自然現象は、とりわけ気候の変化だけは人類に何かで

きるというものではない。まさか、こんなことで人類が滅亡するなんてSFのよ

うなことは起きないだろうけれども、もしかしたら日本全土が沖縄やハワイの

ような熱帯地域になってしまうということはありうるのかもしれないな。そうな

ると・・・・・・私は思った。子供に買ってやろうかと思っていたコートなど、今年

は見送った方がいいのかも。今の季節に相応しい何かを見つけなければ。

ようやくうつらうつらしかけた私の頭の中は週末には買っておかなければな

らないプレゼントのことを考えていた。そう、来週はもう十二月も後半。子供

が楽しみにしているクリスマスなのだから。

                              了


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第六百話 台風の目 [妖精譚]

 毎週のように立て続きに大型台風が発生している。その余波なのか、この辺

りでも集中豪雨が頻発しているが、幸いなことに、今年の台風はすべて本州上

陸を避け、挑戦半島から中国方面に抜けていくのだ。もちろん、九州地方は毎

回暴風雨に見舞われ、被害を受けている場所も多いのだが、本州に沿わない分

だけ、台風の滞留時間はいつもより短く、一夜で大陸方面に抜けていくようだ。

 台風が北上してこないことによる、聞こう上の別の影響は多々あると聞くが、

それでも暴風雨による被害が本州にはなく、そういう意味で最小限度に抑える

ことができているということも事実である。

 ところが、日本を避けるように大陸へ北上していく台風を喜ばない人々もい

るわけで、つまり、台風の直撃を受けている半島の国や中国の人々にとっては、

まるで日本が台風を避けたために、その煽りを受けているように感じるのだろ

う。大陸側に住む民族の中に、勘違いが生まれた。

「日本が台風を操作している。日本がわざと台風を自国に向けて動かしている!」

 またしても反日騒ぎが起きた。

「日本は台風を避けるな!」

「台風は日本固有の災害である!」

「災害をもたらす敵国日本!」

 騒ぎが騒ぎを生み、インターネットを介して流布された間違った見解がさらに

広がり、台風反日デモは暴動に変わっていく。台風が日本を避けて半島に上陸し

た午後、暴風はすでに熱帯低気圧に変わっていたのだが、暴徒化する人々の手に

よって町は打ち壊されていた。台風の目は、もはや自然現象だけに収まらなくな

ってしまったのだ。

                        了

 

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第五百九十九話 異常気象 [妖精譚]

 胡瓜が異常に曲がっている。U字に曲がっているだけならまだましな方で、

瓢箪のように段々になっていたり、バナナのように大きくふくれあがってい

たり、奇形ともいえる奇妙な形だ。茄子も大きく成長しないまま成熟してし

まっている。葡萄は一房の中に紫のと緑のが混在している。

「実りはじめに水分が足りなかったりするど、こんななっちまうんだで」

 農家の主人が嘆いた。今年の夏はほんとうに暑く、しかも九月に入っても

真夏日並みの残暑が続いているという異常さ。そのために各地で水不足が続

いて、どの畑もからからに渇いてしまっている。なんとか手当した水も全土

には行き渡らず、ほんとうなら充分に育っているはずの作物はどれもこれも

が成長しないまま枯れようとしている。

 日本人の場合、夏の気温に耐えることができるのは三ヶ月が限界だという。

ホルモン異常などの現象が起きるという。 もしこれ以上、この暑さが続いた

ら、いったいどうなってしまうのだろう。胡瓜や茄子は生育の初期段階で水

が足りないと奇形になってしまうというが、動物は、人間はどうなのだろう。

この夏、近所の野良猫が妊娠しているのを知っていたが、いつの間にか生まれ

たようで、昨日は小さな鳴き声を聞いた。注意深く子猫の存在を探してみたら、

草むらに小さな影が動いた。だが、それは猫には違いないのだが、後ろ足が小

さく縮み、まるで膝行りのように前足だけで張っているように見えた。もう一

匹は背中が大きく曲がり、それはUの字を逆さまに置いたような以上な姿だっ

た。異常気象による水不足は、動物にも影響を与えるのか。

 妻はいま妊娠中だ。三ヶ月。つまり、水不足が続いているときに胎児の生育

が進行していたということになる。超音波による胎児の写真をみても、小さ過

ぎて男女の区別もまだわからない。来年四月、私は第一子を持つことになる。

今年の夏は暑かったが、来年はきっともっとましな世界に戻ることだろう。赤

ん坊も健やかに生まれてくれることだろう。

                        了

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第五百九十八話 ピアス [怪奇譚]

 ここ数年、ピアス人口はぐっと増えたように思う。その一方で未だに体に

穴をあけるなんてと怖がる人も多いのは事実だ。

 耳に穴をあけると、人生が変わってしまうというまことしやかな噂は、今で

もあるのだろうか。私自身もピアスをあけた当時、その噂を少しは気にした。

だが、好奇心が打ち勝って、両耳に穴をあけた。しばらくしてから友人に「人

生変わった?」と訊ねられ、別にと答える前に少し考えてみると、ピアスをあ

げることによって、私の人生は少しだけど、変わったような気がする。ピアス

をあけている人を羨望することも、色眼鏡でみることも、恐れることもなくな

ったし、いろんなことに少しだけ大胆になったような。だが、そのくらいの変

化は、ピアスをあけようがあけまいが、多かれ少なかれあるものだと思う。だ

からやはり、穴をあけたからといって、人生が変わるものではないと思う。
 ピアスにまつわる噂はほかにもある。耳にあけた穴から白い糸が出るという

話だ。その糸というのは、実は神経繊維で、糸を引っ張ってしまった人は、頭

が変になったとか、死んでしまったとか、話によって結果は違うようだ。


 そこまでの恐怖話ではないが、痛いピアスの話はほかにもある。これは実話

だ。仕事で出会った若いスタッフの話なのだが、彼女は片耳だけピアスをして

いて、ビアスのない方の耳は、少し欠けていた。その耳はどうしたのかと訊ね

ると、何年か前に、大きなリングのピアスをつけていたそうだが、それがどこ

かに引っかかってしまい、耳ごと千切れてしまったのだという。千切れてしま

った耳は、もう塞がらないそうだ。この話を聞いて、私は決してリングはつけ

ないようにしようと思った。


 だが、リングじゃなくても、ピアスというものは、髪に引っかかって絡んだ

り、帽子か何かに引っかかって取れてしまったり、いつのまにか外れてなくな

っていたりということがある。


 他の人がどうしているのかは知らないが、無精な私の場合、ビアスは四六時中

つけたままだ。入浴時も就寝時も、外さない。だから年にひとつやふたつはな

くしてしまう。厄介なのは、片耳ずつなくなってしまうということだ。両耳で

セットのピアスは、片方だけではバランスが悪い。片耳ずつ違うピアスをつけ

てもいいのだか、本人としては、それは許せないのだ。だから、残った方のピ

アスと似たようなモノを探して手に入れようと努力するのだ。

  実は今も、片方無くしたビアスと似たモノを探してアクセサリー店に入った

ところだ。数店物色して、ようやく似たようなモノを見つけたのだが。何かが

足りない。


「あのう、これって」

「いらっしゃいませ。こちらでございますか?」

「このビアスって、この金具の先はないんですか?」

「はぁ〜金具の先〜あの、金属アレルギーか何かで? 金具でしたら、取り替え

は可能ですよ」


「いえ、金具は、このままでいいんだけど……」

「この先といいますと?」

「私、ビアスを引っかけてなくしたんです。その時に、一緒に取れちゃったん

で、似たようなのを探してるんです」


「なるほど。見せてもらってもいいですか?」

「どうぞ」

「! お客様、これは・・・うちでは無理ですね」

「そ、そんな。ビアスは似てるのに」

「いえ、無理です」

 やはりそうなんだ。ピアスにも流行り廃りがあって、昔買ったのと同じよう

なのは、なかなかないんだけれど、その上、耳までついたのとなると〜。今回

私は、右耳につけたピアスを、耳ごと失ってしまったのだ。


                          了

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第五百九十七話 モーニングコール [怪奇譚]

 だらしないとか、癖が悪いとか、言わないで欲しい。小さいときから朝に弱

いんだ。夜ふかししてなくても、体調が悪くなくても、とにかく目覚めが悪い

だ。こういうものは普通、大人になれば治るものなのだろうが、ぼくの場合は

大人になってからでも誰かに起こしてもらわないと決まった時間に起きれな

いのだ。時には一旦は目覚めるのだが、寝ぼけたまま二度寝してしまう。二

度寝などしてしまった時には、そうでないときよりも事態は悪くなる。二回目

はより深く眠ってしまうからだ。大学を出て、会社に通うようになると、親元

を出て一人で暮らすようになった。これを機会に自力で起きることに決めた

のだが、毎朝遅刻続きで、ついに母親に電話をして、家にいた時と同じよう

に起こして欲しいと頼んだ。

「あんたは、ダメだねえ。本当に躾が悪かったのかしら? 小学校の頃は仕

方がないと思っていたけど、中学・高校に入ってからも毎朝起こさなくては

起きないんだもの。大学生になってからは毎朝起こすこともなくなったけれ

ど、あれは早朝の授業がなかったからなのねぇ、本当に困った子」

 困った困ったと言いながらも、母は毎朝決まった時間にきちんと電話をか

けて起こしてくれた。

「おはよう、早く起きて会社に行かなきゃあ!」

「・・・・・・うんわかった」

 毎朝、それだけの会話が交わされるだけの電話であったが、眠り惚けて

電話に出なかったりすることがあると、母親は心配して何度も何度もかけ

直してくれていた。だが、いい大人がいつまでもこんなことではいけないと

言い出し、もうモーニング・コールなんてしないほうがいいんじゃないの?

という話にもなった。ぼくは本当にそうだなぁと思い、でも不安なので、で

は、ぼくが電話に出ようが出るまいが、とにかく決まった時間に三回だけ

ベルを鳴らして欲しいと伝えた。

 それからは、朝七時になると、ぼくの部屋の電話は三回だけ鳴るように

なった。ぼくは受話器を上げることはなかったが、電話線の向こうで心配

そうに受話器を耳に当てている母の姿を思って自力で起きるようになった。

 こんな生活が十年も続いた頃、ぼくはまだ結婚もしていなかった。そして

実家では母親が病気になり、半年の闘病生活の末、天国に逝ってしまった。

残された父親と共に葬儀を行ったあと、ぼくは五日間の忌引き休暇の間実

家で後片付けをしていたが、週末には自分のアパートに戻った。月曜日か

ら出社しなければならないからだ。これからは本当に自力で起きて会社に

行かなければならないのだ。

 月曜日。ぼくは七時十分前に目を覚ました。母を失ってやっと、本当のひ

とり立ちができたのだ。目は覚ますが、相変わらず寝起きは悪く、ベッドの

中でうだうだしているぼく。だが、七時にはちゃんと起きて着替えなければ

ならない。壁にかかった時計の針が七時キッカリをしめしたとき、ルルル、

ルルル、ルルル。電話が三回だけ鳴って、切れた。

                                  了


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第五百九十六話 ひげがある [文学譚]

 気がついたのは十一歳の春だった。まだまだ子供らしいやわらか少し赤みが

さしたような肌に、一本だけ黒々とした毛がにょろりんと伸びていたのだ。左頬

のしたの方。なんだこりゃぁ? と鏡を覗き込みながら調べてみると、髪の毛の

もみあげあたりの毛が顔を出す場所を間違えたといった感じ。父親の顎に密集

しているあの固くてゴワゴワしたものとは全然違うものだと確信した。気がつい

た時には二~三センチほども伸びていて、それも直毛ではなくてくりんとカール

している様が可愛らしくて、このまま育ててみようと思ったのだけど、誰かに見

つかったら、それは恥ずかしい存在であると考え直して、一週間後に毛抜きで

つまんで抜いてしまった。

 それから半年ばかり過ぎた頃、今度は反対側の顎上あたりに、また一本ぴょ

ろりんと伸びている毛を発見した。今度も同じような毛質のものだったが、根元

のところに、もう一本赤ちゃんみたいなのが顔を出しているのが違っていた。こ

のときも前と同じような気持ちでしばらくしてから毛抜きで引っこ抜いた。

 中学生にもなると、鼻の下や顎の先に、髭らしいものが伸びかけている男子

生徒が増えてくる。ちょうど思春期のはじまりで、男性ホルモンが活発になりは

じめる年齢なのだろう。中にはすでに大人の男のようにもみあげから顎までが

黒々とした髭でつながっているような猛者もいる。もちろん女子は髭など伸び

ている者などなく、私もそのひとりであるはずだった。だが、実際には違った。

 そう、小学生にして髭を見つけた私は女子だ。それなのに、思春期になると

男子と変わらないような髭が生えはじめたのだ。理由はわからない。たぶん、

一種の先祖返りなのではないかと思う。まだ中学生のころは量も濃さもたいし

たものではなく、体毛の濃い女子はほかにもいたので、あまり気にならなかっ

た。だけども、高校に進学時には剃毛しなければならないほど濃くなっており、

しかも剃った跡が青々としているような状況になっており、母親から変だとい

われてはじめてことの重大さに気がついた。

 高校生にもなると、大人同然に髭を生やしている男子生徒も現れている一

方で、髭の濃いい女子というのはいただけない状況になってくる。だが、私は

泰然としていた。あの太い毛を見つけた子供時代の経験がそうさせたのかも

しれない。他人と違っていても、これは私の体であり、私の体毛なのだ。私は

私なのだと、なぜかそう思うことができた。高校一年生の頃は、それでも髭の

処理、つまり剃ったり白く染めたりしていたのだが、受験勉強の傍ら、髭に手

をかけるのも面倒くさくなって、次第に伸ばしっぱなしになっていった。女子が

ある日突然つけ髭等で髭面になったら驚くだろうが、人っていうのは不思議な

ものだ。少しづつの変化は気にならないものなのだ。

 髭剃りを止めた私の顔には、毎日少しづつ髭が伸びていった。髭が生えて

くるのは、鼻の下と顎からもみあげにかけて。まだ子供でもあり、伸びる速さ

はゆっくりだった。半月くらいで、無精髭然となり、なんだか汚らしいおっさん

になった気分だったので、マスクをつけていた。それに毛根のあたりがチク

チクしたが、ここで剃ってしまっては、また最初からの繰り返しになると思っ

て我慢した。ひと月すると、それなりに伸びてきて、男子だったら格好いい

かもしれないなぁと、鏡を覗き込みながら呑気に考えていた。

「チャコ、どうしたの、それ? つけ髭?」

 友人が不思議そうに聞いてきたのも、この時はじめて。私が友人にはあ

りのままを話すと、みんな「ふーん、そうなんだ」とそれ以上の関心を示さ

なかったので、内心ほっとした。正直、この時が一番どきどきの時期だっ

たから。みんなから笑われて石でも投げられるのではないかと思っていた

から。男子からも「髭女」といじめられるのではないかと思っていたが、堂

々としていたら、存外何も言われないものだとわかった。

 半年も過ぎた頃、ようやく希望していた長さまで伸びてきた。頬や顎の

髭が十数センチほどに伸びてきたのだ。ここまで伸びる途中でもいろい

ろ試してきたが、やはり中途半端。括るにも、リボンを付けるにも、十セ

ンチはないと。いまようやくさまざまなアレンジが楽しめる位に成長した

のだ。私はかねてから準備してきた様々なヘアアクセサリーを使って、

髭のアレンジを楽しむようになった。編み込み、部分三つ編み、ポニー

テイル、サイドシニヨン、お団子、ゆるふわウェイブなどなど。ロングに

しているヘアとの組み合わせで自在なアレンジが広がった。リボンや

シュシュ、バレッタなどのアクセサリーに加えて、毛染めカラーも含め

ると、本当に様々なお洒落が楽しめるようになった。

 私が髭をアレンジして学校に行くようになると、それまで怪訝な顔で

見ていたクラスメイトも、目の色が変わった。そりゃぁもう、真似をして

みたいという感情がストレートに伝わってきた。しばらくすると、隣の

クラスに髭を生やした女子が現れた。私のように髭のある女子が他

にもいたのだ。体毛の薄い女子の中には、父親の育毛剤をローショ

ンみたいに顔にペタペタ塗っている子もいるそうだ。

 私が三年生になる頃には、女子の五分の一は髭を生やしているか

付け髭を付けているという状況になり、他校でも同じような髭お洒落

が女子の間で流行しているという情報が伝わってきた。女子に髭。普

通なら必死で脱毛を願うところなのだろうが、私が選んだ生き方が、

多くの女子に受け入れられたのだ。髭がある女子。そう、私は、私た

ちは、おしゃれに髭を楽しむ”髭ガール”。新しい女子の時代を創造

する。

                           了

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第五百九十五話 人面瘡 [怪奇譚]

 人面瘡ってしってるかい? 違う違う、人面犬とか人面魚とは違う。瘡って

いうのはね、デキもののことさ。瘤とか、カサっていう地域もあるね、とにかく

そういうの。身体の皮膚の上にぷくっとできるやつ。普通はね、瘡の中に溜

まっている膿を出したら治るっていうものなんだけどね、時々治らないのが

できちゃう。そのうちね、その瘡になんか模様みたいな皺みたいなのがある

なーって思っていたら、二~三日でその皺が顔みたいになってるのね。あら

らって言ってる間に、目ができ鼻ができ口ができ、しゃべりだすの。腹減った

とか、うるさいとかね。本当だよ。ほら、ちょっと見てみ、俺のここ。でこの真

ん中。ほらここ。小さいぷくってしたのがあるだろう? なんか目鼻みたいな

のがわからない? うーん、大分小さくはなってきたんだけどね。もうこれよ

り小さくならないみたいなんだ。

 最初はね、首の後ろにね、ぷくってなんかできたかなーって。首の後ろだ

から鏡でも見えないし、人からいわれてはじめて気がついたのね。ちっちゃ

なイボくらいだったのがだんだん大きくなってね、なんか後ろから声が聞こ

えるなーって。そう、自分では見えないから、瘡に目鼻ができてるなんて気

がつかなかった。口ができて言葉を話しだしてはじめておかしいなって気

がついたんだろうね。でもね、そのときにはもう、瘡はそうとう大きくなって

たよ。そうね、ピンポン玉くらいかな。そこまで大きくなっちゃうと、その先

は早いよ。すぐにテニスボールくらいになって、一晩で最初からあった頭

と同じくらいの大きさになった。

 こうなると、もうどっちが頭かわからないよ。まるで首から上のシャム双

生児みたい。本人は驚いてね、恥ずかしくって外にも出れない。だけど、

仕事とか買い物とか外に出ないわけにはいかない。だから後ろの瘡に

布をかけて隠して外に出るんだけど、布をかぶせられた瘡は黙っちゃ

いないわな。なんだこりゃぁ、暗いわ! 暑いわ! 鬱陶しいわ! ぎゃ

あぎゃあいうものだから、おちおち通りも歩けない。三日目にはもう、精

神的にまいってしまって床に就いてしまったね。人間弱っちまったらもう

いけないね。どんどん気弱になって、もうだめだとか、もう死んでしまう

とか。だけど瘡は元気で、腹が減った! 飯だ飯! 酒飲ませろ! っ

て喧しい。それでますます弱っていくと、人間どうなる? どんどん小さ

くなっていくよ。胸を張って堂々と生きていられる間は、人は大きくなれ

るし、人からも大きく見えるものなんだけど、自信をなくしたり、生きる気

力を失ってしまうと、どんどん萎びていくよ。だから弱ってしまった頭はど

んどん小さくしぼんでいって、身体は瘡に乗っ取られてしまった。

 え? なんだって? お前は山本じゃないのかって? おう、俺は山本

だ。ただ、元の山本の頭はな、ほれ、これ。デコのところにあるこのホクロ

みたいなの。な、目鼻みたいなのがあるだろ? いまは疲れて眠っちまっ

たみたいだけどね。もうこれ、うっとおしいからとってしまおうって思ってね。

俺、今から整形外科に行くところなの。なんでもこれくらいのイボやらホク

ロなら、レーザーでビッって焼き取ってくれるんだって。え? 前の顔より

男前だって? そうかい、それはどうも。じゃ、行ってくらぁ。

                            了

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