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第五百九十四話 悪影響 [文学譚]

 笑うという行為は、人の健康にとって良好な効果を発揮するという。心から

笑えなくても、無理やり笑うだけでも、抵抗力は向上すると言う説は、最近い

ろいろなところで耳にするから、ほんとなのだろう。この笑いの効果を信じる

ことを是挺として・・・・・・。

 ということは、悲しみや恐怖、怒りなどのマイナスイメージの動作は健康に

良くないということなのだろうか。調べてみると、やはりそのとおりだった。

悲観的になったり、否定的になっているときには、体も同様に悲観的、否定

的になり、免疫力が落ちるらしいのだ。だが、それなのに、人は悲しい物語

や恐い話を好んで見たり聞いたりしたがるのはいったいどういうわけなのだ?

まぁ、涙は一方では浄化作用があるなんていうからわからないでもないけれ

ど、恐怖はどうなんだ? 夏になれば怪談話、最近では季節を限らず恐怖話

があちこちで語られて、人々は喜んで話を聞きたがるのはどういうわけ?

 怖いもの見たさってのはさ、一種の快楽なのさ。自分じゃない誰かが恐ろし

いことに遭っているというのはさ、ほら、他人の不幸は自分の幸せっていうだ

ろう? つまり、自分でなくてよかったっていう安堵感の裏返しなんじゃないか

な。友人のひとりがこういうと、もうひとが付け足した。そうだな、それに人の不

幸を覗き見したいっていう、野次馬根性っていうのもあるしな。あ、それと、これ

は真面目すぎる答えだけど、人の振り見て我が振り直せ的な、そのぅ、いわゆ

る自己防衛のために学習するっていうこともあるんじゃないの?

 どれもこれも説得力があるっていうか、なるほどそうかもしれないなと思わせ

る考え方だと思う。つまり、笑い、恐れ、どっちにしたって結局は自己防衛本能

のなせる技みたいなな総括になりそうな意見だな。だが、みんなわすれている。

最初の前提を。笑いは抵抗力を上げるが、恐れや悲しみや怒りは抵抗力を下

げるっていう前提を。

 恐れや悲しみが抵抗力を下げるということが事実であるならば、いくら回りま

わって自己防衛につながるなどと理屈をいってみたところで、体に悪いことに

は変わりがない。なのにどうしてわざわざ身体に悪いことをするのか。実は、

ここにこそ本当の真理があることにぼくは気づいてしまった。

 バランスだ。表の反対側に裏があるように、世の中にはプラスがあればマイ

ナスがある。天国と地獄。善と悪。世の中に悪人よりも善人の方が遥かに多

いと思われがちだが、実際には、善人の中の悪、悪人の中の善を天秤にかけ

ると、それらは均衡になるはずだ。同じように、健康に笑っている人ばかりだと、

世の中はバランスを失ってしまう。だから、泣いたり怖がったりして不健康な人

間の存在が必要なのだ。このバランスが悪くなって、極端な状況にまで突き進

んでしまうと、人類全体が消滅してしまうことになるのだ。そう、人類という種が

バランスを望み、それを保持していくために、人間の本能に植え付けた渇望、

それが恐怖や悲しみ、怒りを求めさせてしまうのだ。そう思うだろう? 理屈で

は笑っていたいと思うのに、何故だか怖いものを見たり、悲しいお話を見たり

したくなるのではないかな? それこそあなた自身が、この、種が初期設定し

た本能に操られているということなんだ。

                                   了

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