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第六百十三話 ホーム [日常譚]

 半袖シャツからむき出しになった腕を撫でる風で目を覚ました。ううっ、さ

ぶっ。つい数日前までは額に滲み出る汗に目を覚ましていたのに、なんな

のだ、この急激な気候の変化は。まだ六時前だが、すでに周りは明るくなっ

ている。九月だとこんなものか。これから次第に日の出は遅くなっていくこと

だろう。日の出が遅くなると、当然朝の気温も下がって、ますます寒くなって

いくだろう。オレは寒いのが苦手だ。起きがけに寒いってだけで、毛布の中

から這い出るのが嫌になる。その分、夏はいい。よほど高地にでも行かな

い限り、夜中に寒いなんてことはないし、毛布に潜り込むなんてこともない。

第一、毛布など必要ないのだ。何もなしで道路でだって眠れるぞ、オレは。

 だから夏は早朝から目覚めて、仕事をはじめることができる。だが、秋か

ら冬に向かって気温が下がると、目は覚めていても動き出すのがいやだか

ら、いきおい仕事にも行かなくなってしまう。仕事をしないと一銭にもならな

いから、飯が食えなくなってしまう。そうなんだ、オレに限らず、みんな同じ

なんじゃないかな。冬になると寒さに体温を奪われて体調を崩すということ

もあるだろうが、そもそも起き出さなくなって仕事をしなくなってしまうから、

金がなくなって、飯が食えなくなって、それで栄養不足、カロリー不足にな

ってしまうから、体力がなくなって体調を崩すのではないか。少なくとも、

オレにはそういう不安があるな。

 そういうわけで、夏の間はそこいら中どこで寝ててもよかったのだけれども

これからはそうもいくまい。そうそう、広い場所はだめだ。広いと熱が拡散して

しまうし、そうじゃなくても気分的に寒々しい。犬や猫が狭いところに潜り込ん

で眠るのもよくわかる。人間だって同じだと思う。毛布の中で縮こまるのも、同

じことだわな。狭い小さい空間にいれば、体温が拡散することもないし、自分

自身の息がまたヒーターになるってものだ。こういう工夫こそが生き残りの知

恵ってもんだ。身体が寒さに気づく前に、ちゃんとこの賢い頭で予測すべきだ

った。危ない危ない。

 オレはすぐに毛布から這い出して、移動の準備をした。こんなことは早い方

がいいいのだ。いい場所は早くなくなってしまう。みんなよく知っているのだ。

身を守る場所、安全な場所を。足元に広げたままであった数少ない荷物を

まとめ、準備を整えたオレは、よし! と気合を入れて一歩踏み出す。荷物

は多くはないし、大したものでもないのだが、それだってオレにとっては大事

な財産だ。去年のあの公園を目指そう。そう決めてオレは歩き出した。ガタ

ガタいいながら転がるリアカーを引いて。

                                了

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