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第五百九十一話 アイドルオタクの罠 [可笑譚]

 そもそも可愛いものが好きなんだ、ほんとうは。だけど、男が可愛いものが

好きだなんて、ちょっと恥ずかしいから、可愛いものたちに囲まれている女子

が好きになった。その最たるモノが、アニメのフィギュアであり、アイドルグル

ープなんだ。フィギュアは購入すれば完全に自分のモノにはなるんだけれど

も、動かないし話さないし、なにより人に知れたらオタクっぽくみえるでしょ。

そういう意味では生身の人間であり、男としては女の子が好きなのは当たり

前であるのだから、どうしても女子アイドルに向かってしまうのだ。それって

別に悪いことではないでしょ?

 で、ぼくが今大好きなのは、あの国民的アイドルAKB48に続いて生まれ

たNSN48、そう、NiShiNari48なんだ。そ、西成のアイドル。あの労働者イ

メージが強い我が町に、こんなアイドルがいたなんて。それだけでもワクワ

クするじゃない? もっとも全員がこの町の人ってことでもないんだろうけれ

ど、とにかく美女48人が我が町に関係しているってだけでもワクワクするじゃ

ない。

 ステージの上で、全員が布を多用したひらひらの衣装を揺らしながら、腰を

動かし手を振り回し、軽快にステップを踏んで歌い踊るあの勇姿は、もう可愛

い過ぎてドキドキが胸から飛び出しそうになる。テレビの前で一緒に踊り出し

たくなるのだけれども、さすがにブサイクな僕がそんなことをしているところを

誰かに見られたら恥ずかしすぎて死んでしまうから、それはしないが、頭の中

ではぼくも一緒に歌って踊っているんだ。

 年に一度の総選挙の時には、全財産を投げ打って、CD百枚を買って、中に

入っている投票券にはすべて大好きなあっちゃんの名前を書いて投票したりし

てるんだ。それほどの熱狂ファンがここにいるってことを、NSNの彼女たちにも

知ってもらいたいんだ。町を歩いてて目についたポスターやチラシ、グッズ、ど

んなものでもまずはチェックして、チェックしたらとにかくゲットする。売り物では

ないポスターなんかでも、お店の人に頼み込んで頂戴するんだ。そりゃぁそうで

しょ、そこまで好きなんだから。

 お、何だ? どうして? あんなところに。どういうわけだか、道の真ん中に、

NSNのCDが落ちているではないか。誰かが落としたのか? もったいない、

というか、ダメじゃないか、こんな大切なものを落としたりしては。もう持ってる

CDの色地がバージョンのだ。ああー欲しかったけど、我慢してた奴だ。あれ、

拾ったら、届けなきゃだめかしらん? いやいや、CDくらい、もらっちゃっても

いいだろう、ね? ね? うん、もらっちゃおう。誰も見てないな? 誰もいない

な? いいかい、拾うよ、もらうよ。僕は誰もいないのを確かめてから、歩道の

真ん中に落ちているNSN48のCDに近づいて、拾い上げた。

バタン!

 なんだ? 何が起きた? なんだか傘のようなものが覆いかぶさってきて、

僕は籠のようなモノの中に閉じ込められた。外で声がする。

「おおい、また罠に引っかかったぞ。結構大きいぞ。アイドルオタクってみん

なバカだな。こんな単純な罠に引っかかるんだから。これで何匹目だ? 今

週は大漁じゃないか。さてと、こいつはどう料理するかな、今日は」

 僕は捕まってしまったらしい。アイドル仕掛け人の罠に。

                                  了


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