第六百話 台風の目 [妖精譚]
毎週のように立て続きに大型台風が発生している。その余波なのか、この辺
りでも集中豪雨が頻発しているが、幸いなことに、今年の台風はすべて本州上
陸を避け、挑戦半島から中国方面に抜けていくのだ。もちろん、九州地方は毎
回暴風雨に見舞われ、被害を受けている場所も多いのだが、本州に沿わない分
だけ、台風の滞留時間はいつもより短く、一夜で大陸方面に抜けていくようだ。
台風が北上してこないことによる、聞こう上の別の影響は多々あると聞くが、
それでも暴風雨による被害が本州にはなく、そういう意味で最小限度に抑える
ことができているということも事実である。
ところが、日本を避けるように大陸へ北上していく台風を喜ばない人々もい
るわけで、つまり、台風の直撃を受けている半島の国や中国の人々にとっては、
まるで日本が台風を避けたために、その煽りを受けているように感じるのだろ
う。大陸側に住む民族の中に、勘違いが生まれた。
「日本が台風を操作している。日本がわざと台風を自国に向けて動かしている!」
またしても反日騒ぎが起きた。
「日本は台風を避けるな!」
「台風は日本固有の災害である!」
「災害をもたらす敵国日本!」
騒ぎが騒ぎを生み、インターネットを介して流布された間違った見解がさらに
広がり、台風反日デモは暴動に変わっていく。台風が日本を避けて半島に上陸し
た午後、暴風はすでに熱帯低気圧に変わっていたのだが、暴徒化する人々の手に
よって町は打ち壊されていた。台風の目は、もはや自然現象だけに収まらなくな
ってしまったのだ。
了