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第六百一話 熱帯夜 [空想譚]

 暑い。ベッドの中で毛布もかけずに裸同然といった姿で横たわっているのだ

が、息をしているだけでもう身体がじっとり濡れてくる。天井を見ている額にも、

いつのまにか汗粒が浮かんでいるのだ。時おり、開け放った窓の網戸を通じ

てそよ風が入ってくるといささかほっとする。隣で眠っている妻や子供も、度々

寝返りをうっている。暑くて寝苦しいのは自分だけではないのだ。

 ジークジークジーク。窓外から聞こえてくる虫の鳴き声を聞きながら思った。

あの虫はなんという虫なんだろう。昔はあんな鳴き方をする虫なんていなかっ

た。たぶん、ここ数年の間に南方から北上して来た昆虫なんだと思う。ここ数

年来、異常気象といわれてきたが、今年の夏は一層それが進んだように思う。

ニュースでもそう言っていたではないか。地球規模で起きている温暖化に加え

て、台風のコース変化に伴うフェーン現象、海流の変化、どれもこれもがこの

国を暑いエリアに変えてしまっているようだ。一昨年は南方の毒蜘蛛が日本に

も生息するようになったというし、海では何回にしか住まないマンボウをはじめ

とする熱帯魚が青森あたりでも捕獲されるという。きっと窓外で鳴いている虫も

フィリピンかどこかでは定番の虫なんだろうと思う。

 このままこの暑さが続いたら、国中の人間の健康が損なわれてしまうかもし

れないという。だが、自然現象は、とりわけ気候の変化だけは人類に何かで

きるというものではない。まさか、こんなことで人類が滅亡するなんてSFのよ

うなことは起きないだろうけれども、もしかしたら日本全土が沖縄やハワイの

ような熱帯地域になってしまうということはありうるのかもしれないな。そうな

ると・・・・・・私は思った。子供に買ってやろうかと思っていたコートなど、今年

は見送った方がいいのかも。今の季節に相応しい何かを見つけなければ。

ようやくうつらうつらしかけた私の頭の中は週末には買っておかなければな

らないプレゼントのことを考えていた。そう、来週はもう十二月も後半。子供

が楽しみにしているクリスマスなのだから。

                              了


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