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第八百二十四話 切り忘れ [文学譚]

 うう、寒い。もう春も半ばだというのに、いつまでも肌寒い日が続く。いっとき暖かくなった時にしまいこんでしまったコートをもう一度だしたいくらいだ。部屋の中にいてもこの寒さって、いったい……。

 例年ならこの時期にはもう暑くて冷たい飲み物が欲しくなっていたような気がするのだが、なにか暖かいものを飲みたくなって、レンジでお湯を沸かしていたが、ただお茶っていうのもなぁ、ちょっと甘いものとかがいいなぁ……そう思いついた時に、そういえば冬場に愛用していたココアの粉が少し残っていたことを思い出した。

 普段ならこんな春先にココアなんて飲みたいとも思わないのだが、それほど寒いってことだ。

「ねぇ、ココア飲む?」相方に訊ねると「お、いいね、それ」というので、鍋にミルクをたっぷり入れて温め、弱火にしてからココアの粉を投入した。

「うーん、やっぱり寒いとココアなんていいよね」

「ほんと、おいしい」

 ふたりで微笑みながらココアをすすっていると、相方がなにかに気がついて言った。

「ちょっと、コンロの火がつけっぱなしだよ!」

 ほんとうだ。しまった。またやってしまった。最近なんだかこういうことが多いのだ。強火で調理をしているとそんなことはないのだが、弱火で鍋をあた食べていたり、保温状態にしていると、つい火が点いたままなのを忘れて空焚きしてしまってたりするのだ。

「気をつけないと、あぶないよ」

「そうだねぇ、もう歳なのかしらね、ボケはじめてるのかなぁ?」

「まさか、そんなことはないだろうけど、注意しないと」

 そんなことを言い合っているうちに、相方がまたひとつなにかに気がついた。

「そういえば、もしかして、この寒さって……?」

「ええ? なに? 寒さがなぁに?」

 相方が、制御室の方を指差して困ったような顔をする。なに? なによ? 私がまたなにか失敗したっていうの? 思いながら頭の中を梗塞回転させているうちに、あっと思った。そういえば、春先に気温サーモスタットのメンテナンスをした後、冬スイッチを切ったかどうかの記憶が曖昧なのだ。

「もしかして……」

「そうだろう? ちょっと見てきてよ」

 相方と私は天上界で季節のコントロール係を担当している神なのだが、まさか世の中がいつまでも寒いのが自分のせいだとは……まったく、歳はとりたくないものだ。私は少しよろめきながら地球環境制御室に向かった。

                                 了


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