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第八百十三話 究竟のエネルギー [文学譚]

 必ずこんな日が来ると信じていた。この日のために俺は密かにこのノウハウを温存してきたのだ。あの日、経済低迷が続く世の中に追い討ちをかけるように発生した大震災は、原子力発電所を破壊し、その煽りで国内のエネルギー問題に火がついたのだ。政界で、経済界で、そして学会でも民衆の間でも侃々諤々の議論が繰り返され、結果、原子力発電は緩やかに消えゆくエネルギー源であるという見方が主流になった。

 あれから二十年。結局、代替エネルギーも思うように開発されないまま、原子力発電はなんとなく一部で稼働し続け、これを廃止するのか継続するのかという議論は今なお続いている。化石燃料の枯渇時期も一層明確に見えてきて、いよいよ新たなエネルギー源が求められている。

 あの頃、阿倍野未来巣という国政リーダーのおかげで一時的には景気が回復するかに見えたが、結局その後も景気は低迷し続け、なによりも雇用問題は一層深刻化しているんだ。

 俺はこの二十年、密かに新たなエネルギーのあり方を考え続け、とても素晴らしい発電技術を考えついた。これによってもう国民は電力に悩むことはない。風力発電は風が途絶えると発電できないし、太陽光発電は曇りの日にはなんの役にも立たない。ウンコを使ったバイオマスなんていうくっさい発電でもない。とにかく俺のこの発明技術なら、この世に人間がいる限り途絶えることはない。そしてこの技術を駆使した発電所を設立した俺は、今日から大金持ちになれるのだ。

 今日はその俺が立ち上げた新発電所が稼働をしはじめる。ここで生み出された電気が従来の電線を伝って全国に配電される。一方、電線が行き届かないような過疎地にも、俺の発電所は電源そのものを派遣して電力供給することだってできる。こういうシステムはこれまで実現できなかったものだ。

 さぁ、いよいよ稼働開始だ。みんな頼むぞ。今日は俺も発電に参加する。いいか、いち、にの、さん、でキックオフだ。いいか、みんな?

「いち、にの、さん!」

 それぞれの位置で自転車様の発電機にまたがった電力供給者は、俺の合図で一斉にペダルを漕ぎはじめ、全国に新しい電気が供給されはじめた。

                                         了


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