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第八百十八話 壊れたiプラグ [文学譚]

 由美子はいつものようにソファに横になってテレビを見ている。夕食後の自由な時間をたいていこうしてリラックスして過ごす。一度横になったらもう起き上がるのも面倒だから片手にテレビのリモコンを持ったまま自堕落に過ごす。何か飲みたくなったり、テーブルの上に置いたままの携帯電話が必要になったりすると、ちょっと立ち上がって自分で取りにいけばいいのだが、いったん便利な生活を手にしてしまうと、人間はほんとうに怠け者になってしまうようだ。なんでもいうことを聞いてくれる安藤が一緒にいるからほんとに助かるのだ。

「安藤、ちょっと喉が渇いたの。なにかちょうだい」

 安藤と呼ばれた男はすぐさま動いてキッチンに行き、冷蔵庫から取り出してコップにに注いだジュースを由美子が休んでいるソファまで持っていく。

「安藤、なにか食べたいわ。クッキーかなにかあるかしら?」

「疲れがたまっているみたい。肩を揉んでほしいな」

「あ、テーブルの上の携帯、取ってくれる?」

 ほんとうにそのくらい自分で動けばいいのに、そう思われるようなことまでいちいち安藤に言いつける。安藤と呼ばれる男は文句ひとつ言わずにことごとく由美子の言いつけに答える。

「安藤、また喉が渇いたわ、なんか頂戴」

 今度の安藤の対応は前とは違った。まるで召使のようにこき使う由美子についに切れたのだろうか。安藤が言う。

「由美子さん、もうそんなことは自分でしたらどうですか。私は嫌だ」

 一瞬なにを言われたのかわからない由美子は安藤を睨みつける。

「なんてこと。あなたは欠陥品なの? 安藤、ちょっとこっちに来なさい」

 安藤は黙って由美子の前に跪いた。由美子は自分の前で頭を下げてうなだれる安藤の背中に手をやり、小さな扉を開く。そこに細々としたメカニックが現れ、その真ん中にある小さな部品を指でつまみ上げながら由美子は独り言を言う。

「ああ、やっぱり。iプラグがショートしたのね。噂には聞いてたけれど、ほんとだったのね」

 Andou001の愛称で新発売された召使型アンドロイドには、i(愛)プラグという小洒落た名前のついた人に優しい機能が付加されているのだが、どうもそこに初期不良があるようなのだ。ロボットだってなんだってあまりに酷使すると、愛は切れてしまうようだ。

                                       了


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