SSブログ

第九百六十三話 理想の彼女が崩れるとき〜顔の描写練習 [文学譚]

 丸顔でもなく面長でもなく、絵にかいたようなバランスのとれた輪郭でいわゆる小顔である上に、胸元まで伸びた黒髪が両サイドを覆い隠しているからいっそう小さくみえる。肌は赤ん坊のように自然な張りがあって粉もクリームも塗った形跡がないのにピンク色に輝いている。もともと色白であるところへ、この場にいることで少し興奮君に上気しているのだろう。

 彼女の最大の個性は知性と悪戯心を放出して余りある大きい目だ。漆黒の瞳に見つめられると我を忘れて妖しい気持ちになって見つめ返してしまう。さらにシワひとつない目元は思いきり若さを誇っている。きれいなアーチを描く両眉、目頭から下へ降下する鼻筋から連なる小さな鼻、どちらも強過ぎる存在感を拒否している。少しだけ口角の上がった唇はやや厚めでぷるんと弾力がありそうで、淡いチェリーレッドの口紅がよく似合っている。

 たぶん元々の彼女はこんな感じだったに違いない。しかしいま私の目の前にいるのは、理想的な数値の倍はあろうかと思われる脂肪に包まれ、美しいはずのパーツのすべては膨れあがった肉の上にかろうじて貼りついているというありさまなのだ。

 いったいなにが彼女をこのようにしてしまったのかはわからないが、少なくとも彼女の顔はどこにもメスを入れる余地はなさそうに思われる。元通りの美しさを取り戻したいと私の元へやってきたに違いないのだが、これは整形外科医ではなく、ダイエットセラピストの仕事だと思うのだ。

                         了


 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。