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第九百五十六話 臨時生 [怪奇譚]

「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。本日未明、大日本帝国海軍は西太平洋において……」

 かつてはテレビやラジオで突然番組が切り替わってこのようなメッセージがアナウンスされたものだ。臨時ニュースとは定時ではなく、まさしく臨時に報道されるニュース。ところが最近では滅多にこういうニュースを見なくなった。なぜかなと思ったら、最近の臨時ニュースはチャラリンという効果音とともに、テレビであれば画面の上方にテロップとして流れる。現代っぽいツールとしては携帯の待ち受け画面にやはりテロップで流れる仕組みのものや、インターネットニュースでは次々と随時新たなニュースが追加されていく。街に出れば街頭ビジョンやビルの屋上などに文字情報でときどきのニュースが流れる。近頃のスマートフォンというやつは、地震や豪雨、熱中症注意までもがピロリン♪という音とともに各人の端末に配信されてくる。こんな具合だから、それこそ戦争が勃発するくらいの一大事でなければ番組を中断してアナウンサーが登場するような臨時ニュースはなくなったのだ。そういえば先の震災直後にはこの臨時ニュースを見たように記憶しているが、やはりこれは戦争勃発と同じくらい重要な報道だったということだろう。

「ちょっと、臨時で車かしてくれるかなぁ?」

 友人のタケシが言うので、絶対に傷をつけるなよと言ってキーを渡す。臨時でというけれども、これは毎度のことなのだ。タケシは車を持たない癖にドライブが大好きで、レンタカーを借りるくらいなら車貸してやるよ、と言ってやったら申し訳なさそうに借りにきた。しかし申し訳なさそうにしていたのは最初のときだけで、それ以来当たり前のように借りに来る。まぁ、ガソリン代だけだしてくれるなら構わないけれども、まるでタケシの車保管係みたいな気になってきた。こうなったらレンタル料をもらうようにしようかなぁと思いはじめている。タケシは親友だし、彼はデートのために車が必要なんだから、まぁ仕方ないというか、金は請求しにくいのだが。

 その夜遅く、玄関のチャイムが鳴った。扉を開けるとタケシが立っていた。

「なんだよ、こんな時間に。デートじゃなかったの?」

「ああ、そうなんだけど……ちょっと、貸してくれないかなぁ?」

「貸すって……今朝、キーを渡したじゃないか」

 妙な胸騒ぎを感じながらタケシの様子を見なおした。今朝車を貸したときの服装と変わらない。がよく見るとシャツのところどころが破けていた。

「車っじゃぁないんだ。臨時で身体を貸してほしい」

 なぁんだ、そうか。身体か。傷をつけるなよ。と言いそうになって唾を飲んだ。どういうことだ?

「悪い。俺さ、車ごと谷に転落しちゃってさ、身動きとれないんだ。俺はもう大怪我だしどうでもいいんだけれどな、せめてヨメだけでも助けてやりたいんだ。頼む、お前の身体を臨時でいいから貸してくれ!」

 なんということだ。タケシは助けを求めに来たのだ。臨時とはいえ、身体なんて貸してしまっていいものだろうか。そんな谷底へ彼女を助けに行って、ぼくの身体まで帰れなくなるかもしれないのだ。ぼくはちょっと時間をくれと言って考えた。タケシはゆらゆら揺れながら玄関口で待っている。

「早くしてくれよう。ヨメも死んじゃうよう。身体を貸してくれ」

 ぼくは決めた。どうせ臨時なんだ。決められた人生じゃないんだ。事故で死んだぼくは天の計らいで甦るために借りていた臨時の身体を親友に貸してやることに決めた。わかった、貸してやるよ。言うと、意識が遠のき、タケシが身体の中に入ってきた。

                                                  了


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