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第九百六話 古都巡り [文学譚]

「どうせなら行ったことのない京都がいいなぁ」

 お互いにそう言いながら一年ぶりの京都を訪れた。京都までは電車で一時間ほどで行くことができるのに年に一度くらいしか脚を運ばないのは出無精であるからなのだが、余りに近いのでいつでも行けるからと思っていることも原因だと思う。歴史のある街に足を踏み入れることによって、日常から少し離れたところで自分自身をリフレッシュさせることができるので、たまに思い出したようにそうだ京都に行こうと思うのだ。そしてぼくたち夫婦は、たいていは同じタイミングでそろそろ京都に行きたいなと思うのだ。

 年に一度程度とはいえ、既に何度も訪れているので、主だった名所にはだいたい脚を運んでいる。四条から丸山公園、八坂神社、清水寺を回って花見小路、白川そして木屋町あたりというお定まりのコース。または南禅寺、哲学の道、永観堂、銀閣寺、詩仙堂というコース、岡崎公園、平安神宮、御所、東寺、御所、鞍馬山、上鴨神社、東福寺、数え出したらきりがないが、それでも訪ねていない場所もまだまだ山ほどある。そのひとつが三千院だった。三千院は京都の北方面で距離があり、最初からここに行くつもりで車を出すことになる。車でいくなら愛犬も連れて行けるなということになって茶太郎を車に乗せる。高速を走って一時間足らずで京都に着くが、さらにそこから二十分ほど走らなければならない。大原を目指して少し迷いながら走り、ああここが入口だというところで駐車場に車を停めて山道を歩きだす。

「案外近かったね」

「うん、迷わなかったらもっと早く着いてた」

 はじめて来る場所だから迷うのもありだよねと言い訳しながら参道を歩く。次第に狭い道に変化して、道沿いにある土産物屋を除きながら歩く。やがて本堂の入り口にたどり着いた頃に、既視感があった。あれ、どこかに似ている。京都に犬連れで来る場合、ある程度の覚悟が必要だ。つまり犬が入れない場所が多いのだ。ここもまた犬は禁止だった。犬を連れては入れませんという看板を見てはじめて気がついた。あ、ここは前に来たことがある。そうだ、以前も同じパターンで車に愛犬を乗せて来たのだ。それで中には入れないということがわかり、今度来るときには茶太郎は留守番だなとか言いながら帰ったのだ。

 数多い名所名跡を訪れても、まったく記憶に残らなかった場所がいくつかある。ここもそんなひとつだった。前まで来ただけでは訪れたという脳内記憶にはならないということなのだ。

                                             了


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