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第九百話 キリ番 [日常譚]

「あかんやろう、そんなん」

 ぼくが昨日と同じように書きはじめたとき、変酋長が口を出した。

「え? なにがあかんのですか?」

「おまえな、死ぬまでに何回クリスマスを迎えることができると思う?」

「は? クリ……スマスですか? この暑い時期に?」

「暑い時期は関係ないわい。クリスマスがあかんのやったら、ほなら盆でもええわ。おまえ死ぬまでンい何回盆休み取るつもりやねん!」

「す、すんません。けど、ぼく、、今年はまだ盆休みいただいてませんけど」

「当たり前や。まだ七月や。お盆は来月や。そやないねん、ほな、おまえいま何歳や」

「ぼ、ぼくは三十になったとこですけど……」

「三十か……もうちょっとしっかりしてもらわなあかんなぁ」

「はい……すんません」

「そのな、三十歳の夏をな、おまえ人生の中で何回過ごせるんや?」

「三十歳の夏……何回過ごせるかって……?」

「あほやな、おまえはほんまに、答えられへんか?」

「い、いや……三十歳の夏は一回だけです」

「そうや! そうやろ? おまえが三十歳で過ごす夏はな、一生のうちで一回だけなんや」

「「はぁ。そら、当たり前で……」

「当たり前でって……おまえひとつもわかってないな?」

 いったい変酋長はなにが言いたいのだか、ぼくにはさっぱりわからなかった。だけど、これまで何度この人に救われてきたことか。毎日書かなければならない記事なのに、ネタ切れで困り果てたとき、この人が言ったことが大きなヒントになって先に進むことができたこともある。書き上げた記事の間違いを正してくれたこともある。なにしろ、この人は平生はぼぉっとしている癖に、口を開けば存外いいことを言うのだ。

「今日はどういう日や」

「どういう日って……今日はえーっと、じゅ、十三日」

「十三日の金曜日の次の日……って違うわっ。ほかにないんかい」

「ええっと……」

「今日書く記事は何回目や?」

「今日は……ええーっと」

「おまえそんなんもわからんで書いとんのか!」

「す、すんません。あっ」

「おっ。わかったな、さては」

「もうすぐお昼です」

「がっくり。まじめにやれよ、君。今日書く記事は第何話や?」

「ああ、それですかぁ。ちょうど九百話になります」

「そうや、そこやがな」

「きゅ、九百話?」

「そやで。これまで長いこと書いてきて、九百という数字にはじめて出会ったんとかうか? ほんで、その九百話というキーワードは、もう千話書き続けないと出会うことはない」

「あっ! そういうことですか。なるほど。では、今日は九百をテーマに記事を書くべきだって、そう言いたいわけですね!」

「その通りや。九百の話を書けるのは、今回だけやでぇ? これはある意味チャンスとちゃいますかい?」

「はい……」

 いったいなんのチャンスかはわからないが、少なくともこんなキリ番をネタにしようと思わなかったとは。ぼくもまだまだだな。しかし、九百って言われても、それはどんなネタなのか。ぼくはとりあえずウィキ辞書を取り出して調べてみた。

 なんじゃこれは?

”くひゃく”:一貫に百文足りないという意味から、愚かな者をあざけっていう語句。天保銭(てんぽうせん)。

 なんだ。きゅうひゃくではなく、くひゃく。しかも愚か者のことだって。あんまりいい感じではないな。しかし、知らなかった。九百は百足りないから愚かだなんて。ここから広げて……広げて……広げ……られへんなぁ。困ったなぁ。あれだけ変酋長にどやされたのに。そうか! 反対に残りの数字を調べてみよう。千一話まで、あと百一話! これだっ! そうおもいついたぼくは再びウィキ辞書で百一を調べてみた。

”ひゃく‐いち”:百のうち真実は一つだけである意から、うそつき。

 これはまた……すごい意味を持ってるんだなぁ。知らなかった。百一にこんな意味が隠されているなんて。しかし、いまの人は誰もこんなこと思わないよなぁ。百に一つしか真実がないだなんて。これまたネタにならん。参った。結局こんなこと考えずに書きかけてた記事を仕上げた方がよかった。ん? まてよ。百一……百いち……百一匹……百一匹なんとかってアニメがあったなぁ! あれはいいアニメだった。そうか、これからまた百一話を重ねていくイメージを書いてみよう。ほら、イメージは白地に黒い模様が入った、そう、ダル、ダル……ダルメシアン! ダルメシアンの子犬だ!

 ぼくは不眠症患者が羊を数えるように、白と黒が混じり合ったダルメシアンの子犬の姿を頭の中に思い浮かべて、そいつが羊を囲った木の柵の中にジャンプして飛び込んでいく姿を描写しはじめた。

 最初の一匹は目の前にそびえる羊牧場の柵を見上げて、無理だこんなもの、飛び越せるわけがないと思った。だが、後ろから兄弟が早くしろとつついてくるので焦る。おいおい、推すんじゃない。すぐに飛ぶから。こんなもの簡単だい! 待ってろよ、一二の三! なんとか前足だけが柵の向こう側に入ったが、柵はおなかのあたりにつっかえて、それをなんとか後ろ脚キックで乗り越えた。彼が地面に着地できたとき、二匹目の白と黒が混じった子犬がまた柵の前で躊躇していて……

 キリがない話。キリ番だから? いいや。適当に書きはじめてしまったからだ・間ぁいい。とにかく今回は第九百話。あと百一話でこのブログの物語は終わる予定だ。ほんとうに最後まで書き続けることができるとすればだが。

                                                了


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