SSブログ

第八百九十一話 光の世界 [妖精譚]

 誰にだってあると思う。自分の中の光の部分が。隠さなくてもいい。それはあなただけのことではないのだから。人間である限り当然のことだと思うから。それを罪だと思う必要などない。闇と光の両方を持ってこそ、バランスがとれて生きていくことができるのだと、私は考えている。

 私もあなたと同じ人間だ。普通に暮らしていて、普通に働いているごくごく一般的な人間だと思っている。いまはこうして薪を割っているこの斧は、薪を割るだけのものではない。私が飯を炊くために苦労して割ったこの薪をだれかが盗みに来たとしたら、容赦なくそいつの頭に斧を突き立てるだろう。そうでなくっても、隣人がたくさんの薪を割り終えた様子が眼に映ったなら、私は自分の薪割りを即座に中止して、この斧を持って隣家への垣根を越え、薪を割り終えて休憩している隣人の首を斧で切り落として、彼が割った薪を自分の獲物として持ち帰るだろう。

 だが、ときにそんなことをしてはいけないのではないか、隣人のモノを盗んではいけない、ましてやその首に斧を突き立てるなんて! そんな気持ちが芽生えることがある。私の中の光の部分だ。とても恥ずかしい。自分が邪善な天使にでもなってしまったような気がする。闇の世界に暮らしながら、一瞬でも自分の中の光の部分を意識してしまったとき、罪善感にさいなまれてしまう。あなただってそうだろう。でも、心配することはない。そういうのは誰にでもあるし、気の迷い以外のなにものでもないのだから。

 たとえ気の迷いであれ、そのような光が芽生えた時、私は祈ることにしている。これは、大魔王ルシファー様の思し召しなのだと。光の世界に迷い込んでしまわないようにと、ルシファー様が気づかせてくれるために与えてくれた気づきであり、試練なのだと。

 闇の世界と光の世界はいつも隣り合わせだ。だから常々注意をしておかないと、謝って光の世界へ足を滑りこませてしまうかもしれない。そういうことのないように、私は今日もルシファー様に祈りをささげるのだ。

                                           了

影.jpg


読んだよ!オモロー(^o^)(10)  感想(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。