第千二話_short 願い [超短編]
たんすの引出しから現れた妖精が言った。
「あなたが正直に真面目に生きてきたご褒美をあげよう。ひとつだけ、望みを叶えましょう」
「それなら・・・あまりにも凡庸で醜い私のこの顔を、中身にふさわしいものにしてください」
「わかりました。正直で真面目なあなたの内面にふさわしい容貌にしてさしあげましょう」
妖精の杖が光って魔法の粉が私の顔面に降り注いだ。
妖精が消えるや否や私は鏡を取り出して覗き込んだ。
大きなまるまるした目が丸顔の隅々を確認していたが、なにひとつ変化したようには思えなかった。
正直者そのものの顔が相変わらずそこに映っていた。
了
※毎日書き起こしの超短編小説「千一話物語」が、昨日、二年と二百七十一日を経て昨日千一話目に到達しました。眉村卓さんに倣って千七百七十八話まで続けようかとも思いましたが、しばらくはぼつぼつと、もっと短いショートショートを、ほぼ日、あるいは思いつくままに書いていこうかなと思います。
これからも、よろしくお願いします。