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第九百八十八話 臨時休暇 [幻想譚]

 ついに休んでやった。それも平日だ。会社は経営状態が思わしくないと言っているのに、僕らは毎日忙しく働きづめで、日々のサービス残業はおろか土日も休めないような状態が続いている。こんなに働いているのに給料は下がる一方で、会社の業績が上がったという報告もないのはどういうわけなのかわからない。確かに昔と同じ仕事をしていても売上げ金額は以前より下がっていて、それは仕事先の予算枠が大きく引き下げられていることや、世間全般の物品価格が下がってしまっていることと大きく関係していて、僕らの人件費も下げないとやっていけない状況になってしまっていることに由来している。仕事はあるが、お金はないというのがお得意先の状況なのだ。僕らの仕事はどんどん増えるが、請求金額は変わらないどころかどんどん下がっていく。それでも業績をキープするためには働かざるを得ない、そんな悪循環に陥ってしまっているのだ。

 働いても働いても収入も上がらず休みも取れない。しかし会社には有給休暇があるのだからと休む社員もいるにはいるが、ひとり休むとその分他の社員の分担が増えて大きく迷惑をかけることになる。そう思うとそうたやすくは休みが取れないのだ。

 今度こそ休んでやる。そう思って旅行を予約したこともある。しかし、いよいよその日が近づいてくると、どういうわけか急ぎの仕事が入ってしまい、とうとう予約をキャンセルして予定していた休みを返上せざるを得なくなる。キャンセル料はばかにならず、こんなことなら無理して予約などしなければよかったと思う。そんなもの、仕事なんてなんとでもなるから休んでしまえばいいのに、と同僚は言うけれども、そんな訳にはいかないのだ。僕が休んだらいったい誰がこの仕事をフォローできるんだと思うからだ。ばかか、お前の仕事なんて誰でもカバーできるんだよ、と言われて頭に来たこともある。それが本当なら、なんで僕はこんなに忙しいのだ。仮に僕が休んだとしよう。間違いなく会社の誰かが電話をかけてくることになるだろう。あれはどうなってる、これはどうすればいいのか? そんな問い合わせが相次いで、結局僕は休みを返上して出社することになるに違いない。

 ところが平日に休んでしまっているというのに、誰からも電話が来ない。これはいったいどういうことなのだ。僕がいないと会社が困ると思っていたのは思い過ごしだったのだろうか。それどころかさっきから周りがざわついていて、何事かと思っていたら会社の連中がうちにやってきている。山田も鈴木も、川口先輩まで。いったいなにしに来てるんだ。忙しいはずなのに。仕事は大丈夫なのか? ああ、そうか。もしかして僕の仕事がわからなくて、電話じゃなくて直接聞きにきたのかな? みんないつになくシックなスーツを着て、受付の里奈ちゃんまで黒いワンピースでやって来た。いったいなんなのだ。

 僕は出迎えようと思うのだが、どうしたことか体が動かない。なんだここは。なぜこんなに狭いんだ。金縛り状態で横たわっているとどこかで鐘が鳴った。線香の匂いが漂ってきて、陰鬱な読経が聞こえてきた。僕は高いところからみんなを眺めていて、自分の体が箱の中に横たわっているのを発見した。

                                                                                 了


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