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第九百四十二話 嘲笑 [文学譚]

 めずらしく何日も降り続ける雨も、降りはじめの頃はいいお湿りじゃぁないですか、これで今年は水不足にならなくて済むかも知れませんなどと前向きに話し合われていたのだけれども、こう毎日降り続けると外に出るのさえいちいち雨具を使わなければならないことを思うと億劫になり、そろそろ晴れ間が見えてきてもいいのになどと思ってしまうし、そもそも気持ちが内向きになってしまう天候であるのに人となど会うべきではなかったのに違いなく、実際、永らく私を悩ませ続けてきたことがこんなところでおかしな方向に向いてしまったのも、間違いなくこの意地の悪い雨粒のせいに決まっているのだ。

 音もなく降りしきる雨の窓枠を背中にした富井先輩に顔を覗き込まれながら、福沢課長なんだろ、君が欠勤している原因は? と訊ねられ、否定するより先に、ああ、社内ではそういうことになっているんだとようやく最近のみんなの視線の意味がわかり、検討はずれな先輩の言葉に思わず頬が緩んで小さく笑ってしまった。「ああ、やっぱり」どう思ったのか先輩は心得たような相槌を打ってから、ゆっくり休んで気持ちを整理するといいよと言い残して伝票をつかんで立ちあがった。違うのに。あなたなのに。伝えたい想いと迷惑という言葉が往来する頭の片隅で、この歳になってまだこんなに追い詰められた気持ちになるなんて、少女じみた心の残りかすのことを思うとひとりでにまた笑いがこみあがってきた。             了


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