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第九百三十五話 あほ踊り [文学譚]

 踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿保なら踊らなそんそん!

 よしこののしらべとお馴染みの陽気な歌を聞きながら、大人も子供も年寄りも、男も女も踊り狂った四日間があっけなく終わった。

  祭の後の寂しさよ、などという言葉通り、賑やかであればあるほど喧騒の後の町はいつになく静かに感じてしまうのは私だけではないだろう。今日と明日、残り 二日間の休暇が終わると、月曜日からはいつも通りの日常がはじまる。そのときになってまだ祭りの余韻を引きずっていては仕事も捗らないだろう。そう思うか ら残り二日間は身体を横たえ、心静かに過ごさなければならないと思う。それなのにまだ、頭の中ではあのしらべが流れ続けているのは例年通りだ。そう簡単に は抜け出せないのだ。だからこそ二日ほどのリハビリ期間が必要なわけなのだ。

  町のみんなはどうしているのだろう。こんな状態は私だけではないはずだ。近所のコンビニに行くついでに人々の様子を観察する。道ゆく人も、コンビの客も店 員も、見た目には静かな日常に帰ろうと平穏にしているようだ。だが内心はそうではないのが、彼らの肩や足先、指の先に見て取れる。そうなのだ。私に限らず 世の中の誰もが普通にしていても身体のどこか一部が踊り続けているようだ。その心と身体の葛藤からか、そこここで怒鳴り声が聞こえたりする。

「お前、もう祭りは終わったんだぞ、いつまでたらたらしているつもりなんだ!」

「そ、そんなこと言わないでくださいよう。店長だって昨日まであんなに浮かれていたじゃぁないですかぁ」

 頭に中で歌詞が変わる。

 怒る阿呆、ビビる阿呆。同じ阿保なら怒らなそんそん

 いや、そんなことはあるまい。なにもカリカリ怒らなくても。祭りの直前にあった上司との揉め事を思い出してしまう。ああ、そういえばなにもかもが嫌になってた。死にたいとさえ……頭の中の歌がまた変わる。

 生きる阿呆、生きぬ阿呆、同じ阿保なら……

 ひとりでに指先がぴょこんと跳ねる。

                                 了


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