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第八百三十五話 国民不名誉賞 [可笑譚]

「なんかおかしいよな」

 テレビで中継されている国民栄誉賞の様子を見ながらぶつぶつつぶやいている男がいた。下町に住む留五郎という男だ。横で一緒にテレビを見ていた熊吉は留五郎のひとり言を聞き逃さなかった。

「なんだよ、おめぇ、この表彰が気に入らねぇってのか?」

「誰がそんなこと言った?」

「いま、なんかおかしいって呟いただろ?」

「ああ、聞こえてたのか。あれはなぁ、違うんだ」

「違うって、おめぇは半神ファンだから元虚人の選手が表彰されるのが気に入らねぇんだろ? そだろ?」

「いやいや、それは少しはあるけどなぁ、そうじゃないぞ。どうだ、あの流締監督の姿。松居選手の立派なコメント。こりゃぁ感動ものだぜ。なかなかいいこと言ってるじゃぁないか。周りのみんなの力で、自分がこのような環境にしてもらったんだって。よくわからんが、立派な台詞じゃぁないか」

「なぁんだ。てめぇも感動してたのかよ。じゃぁ何が気に入らねえ?」

「気に入らねぇっていうか、おかしいて言ってるんだよ」

「だから、何がおかしいんだい」

「そのな、物事にはよ、上があるなら下だってあるんだよ。トップ賞があるなら、最下位賞か、せめてブービー賞があるってなもんだ」

「なんだそれ。ボーリング大会じゃあるまいし」

「いやいやいや。やっばしよ、上だけじゃあ片手落ちだろう。一生懸命生きたけれども、だめでしたという人間にもよ、残念だったなぁって言ってやらないと、生きていく望みを失うぜ」

「それはわかるが、どんなやつに不名誉賞を贈るんだい?」

「そうだなぁ。たとえばよ、何回も失敗して捕まり続けの泥棒とかよ。生活保護費を騙し取り続けている底辺の奴とかよ」

「何だそれ。そんな奴に賞を贈ってええんか?」

「ええも何も。そういう奴こそ、表彰でもして救い上げてやらねば」

「ってか、それっておめえのことじゃないんかよ。何回も捕まってて、人の金騙し取ってて」

「まぁ、そうだな。たとえは俺だよな」

別に、褒めて欲しい訳じゃない。トロフィーなんかいらないが、ああいうのもらったら、きっと金になるんだろう? じゅ十万、いや、五万・・・・・・五千円でもいいや。国民不名誉賞、誰か俺にくれんかなぁ。誰か、おくなはれ!

                              了


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第八百十二話 汚染物質 [可笑譚]

 かつて震災を引き金とした発電所事故以来、この国のエネルギー政策は大きく見直され、それまでも研究開発が進められていた新エネルギー技術が相次いで実現化に向かった。もちろん旧来的な化石燃料による火力発電も継続していたが、枯渇に向かう化石燃料に代わるエネルギーが重視されたのだ。新エネルギーとは、すでに一部で実行されている風力や太陽光だけではない。太陽熱、地熱、海洋温度差、蓄糞(バイオマス)、雪氷熱、波力……ありとあらゆるものにエネルギーを生み出す力が秘められているのだ。

 この町にも、もっとも身近で有用な資源を利用した発電所が生まれ、これこそ安全かつ有意義であると大絶賛を受けて稼働しはじめたのがもう十数年前。ヒューマン・リサイクル発電と名付けられたそれはバイオマス発電の一種で、人間が生きている限り否応なしに産出するモノ、そう排泄物を燃料とした新エネルギーだ。当初は眉をひそめる者もいたそうだが、結果、汚物処理とエネルギー問題のふたつの次元の悩み事を一気に解決できる技術として市民権を得、あっという間に各地にこの技術を使った発電所が建設された。もちろん化石燃料に比べると熱効率は劣るのだが、こちらは人間が存在し続ける限り枯渇するということはない。しかも放射性物質のように鉛の壁や何重もの遮断壁も必要としないのだ。つまりなによりも安全であることが市民に受け入れられた大きな理由のひとつであった。

 ところが昨今、不穏な噂が広がっている。ヒューマン・リサイクル発電所に手抜き工事があったというのだ。放射線のような危険性がないということに安住した技術者が、当時高騰していた建設資材を極力少なく見積もって生まれた燃料プールの壁があまりにも薄いのではないかという事実が漏れ聞こえはじめたのだ。だが人々は、まぁ核じゃないのだから大丈夫だろうとその噂をさほど気にせずにいたのだが。

 ある日、この町を地震が襲った。さほど大きな揺れではなかったので死傷者はまったくなかったのだが、一箇所だけ建家に損傷が生じたことが報じられた。ヒューマン・リサイクル発電所の燃料プールにおいてである。それを聞いた市民は一瞬、あの十数年前の原子力発電所事故を連想したが、いやまぁ、あんなことにはなるまいと思い直したのが大半の市民だった。しかし。

 事態は杞憂ではなく、実際に汚染物質が漏れていることが明らかになった。発電所周辺に漏れ出し、地中や職員の衣服や風雨に伴って汚染物質が拡散しはじめた。町は一面、汚染物質の臭いに包まれた。

                              了


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第七百八十九話 どうかしてるぜ [可笑譚]

 笑いのツボがわからなくなってきた。デビューしたての頃は勢いだけで身体を張るような芸を見せるだけで笑ってもらえていたような気がするのだが、結局その場限りの笑いでしかなかったのだろう。結局売れることなく十年が過ぎていまに至っているのだ。
 いったいお笑いってなんなのだろう。いつも吉田は思っている。芸人になると決めた時、大反対していた親父から言われた。人前で自分を晒すことは難しいぞ。人を笑わすことはあっても、人に笑われるような人間には決してなるなと。そのときはよくわからないままにうんうんと頷いてみせたが、結局親父が何が言いたかったのか未だにわかっていない。ただ大勢の前で人を笑わせるというのはとてつもなく難しいということだけは親父の言った通りだと思う。
 テレビや劇場で毎日のように顔を見せて世間を沸かせている芸人はたくさんいるように見えるが、実際にはその影には十倍以上の売れない芸人や芸人見習いみたいのがうようよいる。自分もそのひとりであり、いつかは毎日テレビに映し出されるような立派な芸人になるぞと思っているのだが、何かがうまくいっていないようなのだ。
 近ごろよく考えるのは、笑いにはセンスというものが大事なのではないかということだ。笑いのセンスさえあれば、そこにいるだけで皆を笑わせ楽しませることができるに違いない。そして自分にはそのセンスがあるとずーっと思っていた。ところがお笑い芸人になって十年目にしてようやく自分には笑いのセンスなどないのではないかと気がつきはじめた。
「なぁ、俺、お笑いには向いてないんじゃないか? どうも笑いのセンスがないように思う」相方に言うと、即座に答えが帰ってきた。
「アホかお前は。いま頃何を言うてるんや。そんなセンスなんかあったらこんな苦労はしてへんわい。そやから毎日血の滲むような努力をしてきたんとちゃうんかい!」
 確かにその通りだ。努力、努力。毎日が努力。でも、十年努力してきて芽が出ないということはどういうことなんだ? そう疑問を持つしかないのと違うか。
 同じ悩みを持つ売れない仲間は山のようにいる。みんなプロとは呼べない、ほとんどあま中に近い状態で長い年月をお笑い業界の中で過ごしてきた。そんな仲間たちが集まると、お互いにどうしたら上に上がれるのか、どうすれば笑いの腕を磨けるのかという話で持ち切りになる。だがそんなものに答えはない。売れる奴は黙っていて売れていくし、立派な持論を説いて頑張っている奴が消えていくこともしばしばだ。だから結局、お互いに傷の舐め合いをし、お前のここがいい、あそこが上手いと褒め合っては慰めるような話になっていく。だってそうでもしなければ、お笑い業界の中で耐えられなくなってしまうから。
「もうちょっとちゃうけ。お前十年やろ。俺はもう十三年こんなことやってんねん。それでもまだまだやれると思とるで」
「お前のギャク、おもろいけどなぁ。まだ世間が追いついてないだけちゃうか?」
「お前のボケ具合は天然やで。あれがセンスっちゅうもんとちゃうけ? そこんとこ、もっとうまい具合になぁ……」
 お互いに褒めたり褒められたり。時には少しだけ批評してみたり。そうやって皆でわいわい言いながら安酒を飲んで、寝て、また起きて。こんな仲間は暖かいと思う。だけどもお互いに褒めあって褒められあってきた仲間の中からブレイク出来た人間はまだ一人もいない。むしろ、褒めあい仲間の輪から少し離れたところで黙って飯食ってる奴がポーンと売れてしまうケースの方が多いように思う。それって、どういうことなんだろうな。皆で助け合っているだけではダメなんかいな。
 相方にそんなことを言ってみると、しばらく考えてからあいつが言った。
「俺らが皆とつるむのは楽しいけれど、それって、お前のギャグみたいになっとんちゃうやろか?」
「お、俺のギャグみたいに? なんやそれ」
「みんなで傷の舐め合い、褒めあいすることでな、よしよし言うてお互いにええことないんかもしらん」
「だから、俺のギャグって?」
「お前まだ気ぃつかんか? 言うてみ、いっぺん」
「俺のギャグ? ……ど、どうかしてるぜ?」
「そうや、もういっぺん」
「どうか……どうかし……あ、わかった!」
 同化してるぜ。なんやそうか。そやけどそれなんや? みな一緒に同化してるって? 相方もセンスないんちゃうん。
                         了
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第七百五十二話 ちかごろの贈り物 [可笑譚]

「チョコレート以外に、何が欲しい?」

 最近のバレンタイン、本命彼氏にはチョコだけじゃなく、普通にプレゼント

をあげるという習慣がスタンダードになってきて、なんだか出費だなぁとは

思いつつも訊ねてみると、アイパッドミニが欲しいと言われた。え? 最近

話題の? そう。あれ、欲しいんだけど、なかなか手が出なくってさ。チョコ

なしでいいから、ああいうのもらったらすっご嬉しい。なあんていわれて、

わたしはすっかりその気になった。だけど、それってどこで売ってるのかな?

なんだか電気屋とかで売ってるらしいけど、インターネットで見てみると、

構高いじゃん。きっともっと安いのがあるはずだと思ってさらに検索すると、

あるじゃない。安くて便利そうなのが。なになに? 

「雨の日に大活躍! もう手放せない、インテリジェンス時代の申し子!」

 って良さそうじゃんこれ。パッケージの見た目は、そのアイパッドなんとか

とそっくりだし、なんかかっこよさそう。雨の日限定なのがちょっと気になる

けど。とにかく、電気屋のサイトで見たものの十分の一くらいのお値段なの

で、ポチッと購入した。二日後届いたものをそのままラッピングして、昨日、

彼の手に。

「えっ? ほんとうに買ってくれたの? アイパッドミニ! うわぁ、軽っ!パ

ケージのままでもえら軽いな。さすがアイパッドミニ!」

 喜ぶ彼の顔を見ながら、あの、その、アイパッドミニって名前では……ちょっ

と言いそびれていたら、バリバリっと包装紙が破られて。なんだこれ? これ

ってアップルじゃないじゃん。パッチもん? 彼の顔がみるみる曇る。

「マイかっぱmino……なにこれ?」

「あのね、雨の日限定。すっごスグレモノらしいよ。その小さなサイズから、

いざとなったらバット広げて、雨を防げる……」

「面白過ぎ……嬉しいよ、お前のそのしゃれっけ。で、チョコは?」

「チョコはいらないっていったじゃない」

「それは……ま、いっか。ありがと、雨合羽。今度使うよ」

「あ。怒った? ね、ね、次はもっといいの見つけてるから。ね、今度は期待

してて」

「ほんとう?」

「うん、もっといいの。えーっとね、ぶるぶる震えて美味しいコーヒーが淹れ

られる、サイフォン・バイブっていう……」

                            了


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第七百四十話 無店舗販売 [可笑譚]

 人から勧められたCDを手に入れたいと、昔で言うレコード店を探すのだが、

あの大手レコードショップのHMVも、タワレコも、近くにはないのだ。ちょっと

前にあったところからはどうやら撤退してしまっていたりして、いったいどこで

CDを買えばいいのだろうと困ってしまった。最近はどんなものでも……服で

も文具でも、家電製品でも、音楽も、映画ですら、ネットで買うことの方が増え

ているために、店舗で買うということが廃れ始めているようなのだ。まだ、ファッ

ションの場合は、実際に試着してみたり、手にとって肌触りやなんかを見たい

ということもあるので、なかなかネットだけで買うということにはならないようだけ

ど、音楽や映画、本などは、ネットで購入する人が増えている。場合によっては

ジャケットなしのデータで買うとより安く手に入るということもあるようなのだ。こ

れは便利だという言い方もできるけれども、しかし、今回の私のように、今すぐ、

ジャケット買いをしたいという人間にとっては、少々困ってしまう場合も起きてし

まうのだ。

   ★   ★   ★

「店長、今月もまた売上が……」

「どうした? そりゃぁ、浮き沈みだってあるだろう」

「いえ、あの、もうこの半年ほど、店の家賃にさえ届かない状態ですよ……この

先、うちのみせは、どうなるんでしょうか?」

 店員からそう言われた店長はしばらく考え込んでいたが、実は以前から構想

していたことをいよいよ実施すべき日が来たのだなと理解した。

「わかった。心配するな。俺に任せておけ」

「任せておけって……どうするおつもりで?」

「うん、今の世の中を見てるとだな、もはや家賃など払っている場合ではないのだ。

うちも、いよいよ無店舗販売に踏み切ろうと思う」

「無店舗販売? 無店舗って……店長!」

   ★   ★   ★

 結局、すぐにCDを手に「入れることを諦めたわたしは、ネットで注文して、

翌日にはジャケット付きのCDを手に入れた。やっぱりいまはこうして買うの

がもう普通になって切れいるのだなぁ。ところで、ネットでCDを探している時

に見つけてしまった別の商品、へぇ、こんなものまでネットで販売するように

なったんだと驚いたものも、同時に届いたのだけれども……いったい、これ

はどういうことになっているのだろう。

 半信半疑で箱を開いたわたしは、中に書類が入っているのを見つけた。

「なんだって……」

”この度は、当店の品物をお買い求めありがとうございました。当店では

より便利により満足していただけますように、店舗販売を終了させ、ネット

にてサービスを販売することに踏み切りました。どうか、ここに書いてあり

ますことを実施して、当店のサービスをお楽しみくださいませ”

 続く書類には、マッサージのやり方が事細かく書かれていて、その順序

で自らのツボを押していくようにと書かれている。あぁあ、騙されたのかな。

どうりで安いと思ったし、こんなもの、どうやって? 出張でもしてくるのかな

などと思ったわたしがバカだった。整体マッサージのネット販売なんて、でき

るはずがないよなぁ。払い込んだ千円を返してくれよな。

                                了


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第六百九十一話 ニッポン未来のとう [可笑譚]

  いよいよ選挙がはじまった。年の瀬の街には選挙カーが登場し、駅前では各

党の出馬者たちによる熱のこもった街頭演説行われている。

 今日、この街の駅前で演説しているのは日本未来の党というこのたび新たに

生まれた新党だ。私はこの新しい政党に、密かな期待を寄せているのだが。

「みなさん、このたび発足しました日本未来の党でございます! 私はこの党

からこの選曲に出馬いたします、宇曽野奈伊蔵と申します!」

 演説をはじめたところに、なにかモダンなデザインの屋台を引いた男がやっ

て来て、しばらくは選挙演説を聞いていたのだが、やにわに選挙カーから少し

離れたところの路上で屋台の店を準備しはじめた。まもなく、路上販売の準備

が整うと、屋台に備えた拡声装置をオンにして、いよいよ販売を開始するよう

だ。

「みなさん、我が党は、この名前のとおり、日本の未来を考える党であります!」

 屋台のスピーカーからは、微かにAKEBI娘と呼ばれるアイドル集団のヒッ

ト曲が流れている。その歌詞は♫ニッポンの未来はおうおうおうおう!♫と

いうあの曲。屋台のスピーカーからオヤジの声がする。

「そして私のこの屋台では、ニッポンの未来を先取りする糖を考えております」

「我が党が約束するのは、税金の無駄遣いを即刻やめるということであります!

これはとても重要です!」

「そのとおりでございます。無駄な税金はやめて、そのお金で買えるもの、それ

が私の未来の糖でございます~」

「さらに日本未来の党では、アメリカとの貿易に大きく影響を与えるTPP問題

につきましても、日本独自の意思を持って対応するべきであると……」

「そのとおりでございます。我が未来の糖が使われているのは、キャンディ、

チョコレート、イチゴ大福、和洋どれをとっても日本独自の美味しさを盛り上

げるのあります」「我が、日本未来の党は、原子力発電につきましても、慎

重に検討を重ねた上で、これを卒業するという考えの下に……」

「そうなのでございます。もはや原子力発電の威力をも淘汰するこの美味

しさ! ニッポン未来の糖は、それほどすごい美味しさを秘めておるので

ございます。皆さま、未来の糖、未来の糖! ニッポン未来の糖をよろしく

お願い申し上げます」

「日本未来の党! 甘くて美味しい、未来の党! 皆さま、未来の党を」

「甘くて~美味しい、未来の糖!」

「国民の皆様に甘くて美味しい未来の党を、どうぞ~よろしくお願いします~」

「未来の糖!」

「未来の党!」

                      了

                     inspired by snakeman-show


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第六百七十二話 馬鹿正直だけど返さん宣言 [可笑譚]

 こうして顔を付き合わせて話をするのはずいぶんぶりなので、野田はいささか

緊張気味だ。

「野田さん、いったいどう考えてるんですか? 近いうちという期限はとっくに

過ぎてますよ!」

 言われて野田はどう返そうかと考えていると、阿部はさらに追い討ちをかけ

てきた。

「もう、これ以上長引かせるのなら、嘘きと言われても仕方がないのではな

いですか? 野田さん」

 嘘きと言われて、野田は瞬間頭に血が上った。

「私は、子供の頃、成績の下がった通知表を家に持って帰ったとき、親父に頭

を撫でられました! なぜそうなったかというと、通知表の生活態度のところに

は、馬鹿がつくほど正直だと書かれてたからなんです!」

「ほぉ? それで?」

「それでって……嘘つきなんていうから!」

「だから、そんなことより、いったいいつ返してくれるんですか、五百円!」

「今、ちょっと、その……今月の十六日までには返さん!」

「返さんって、エラそうに。なんなんですか? じゃぁいつです?」

「ええーっと……ええーっとその」

「あんたはねぇ、結婚するからといって私からご祝儀まで受け取ったんですよ。

なのに未だに独り者じゃぁないですか! あのご祝儀も、返してくださいよ!」

「……ご祝儀……祝儀は返さん!」

「祝儀は返さんって、あんた」

「だって、ほんとうに、もうすぐ結婚するから。それに、祝儀なんてお茶引くと、

ロクなことにならないし……」

「祝儀は返さん、五百円も返さん、どうしてくれるんだ! この嘘き!」

「だからぁ、親父が私の馬鹿正直という評価に喜んでくれたくらい……」

 そこにパチンコから帰ってって来た親父が口をはさんだ

「馬鹿、あれはな、あの通知表には、この子は褒めて育てろって、こう書いて

たからだっ、馬鹿! 借りたもんは早く返せ!」

 大の大人が子供の頃の通知表のことを引き合いに出すというのも、いかが

なものかとは思われるのである。

                                    了


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第六百六十二話 サザエさん [可笑譚]

 サザエさん症候群って知ってる? 月曜の昼、同僚の山田といつもの定食屋

で昼飯をとっているとき、山田がカツ丼の上のとんかつにかぶりつきながら、辛

そうな顔をして言った。オレが、そういえば聞いたことがあるなぁと返事をすると、

少し安心したような和らいだ表情になった山田が続けた。オレ、どうもそのサザ

エさん症候群になっちゃったような気がするんだが、あれって病気なのか?

 サザエさん症候群って言葉は知っているが、それが病気なのかと聞かれても、

オレは医者でも専門家でもないので、なんとも答えようがない。オレが知ってい

ることといえば、日曜日の夕方、テレビで「笑点」を見て、「ちびまるこちゃん」を

見て、「サザエさん」を見終わったあと、ああ、もう休みも終わりか、明日から仕

事なんだということを思い出して、憂鬱になってしまう現象のことだということだ。

果たしてそれが病気なのかどうかなんて、心療内科で聞いて欲しいものだ。

 オレは山田に言ってやった。そんなことになるくらいなら、その番組をみなけりゃ

いいんじゃないか? サザエさんなんてアニメを見るからそんなふうになってし

まうんじゃないのかなぁ? すると、山田は答えた。そうか? ボクは別にサザエ

さんなんて見てないんだけれども、その、症候群になっちまったらしいよ。ふぅん、

そうか、サザエさん、見てないのか。見てないのに憂鬱になるのか。

 憂鬱という言葉に山田が反応した。憂鬱? なにそれ。ボクは憂鬱になんてな

らないよ。誰がそんなこと言った? オレはこいつ今言ったばっかじゃないかと思

いながら、だってサザエさん症候群だって言ったじゃん、と言うと。ええ? サザエ

さんって欝なのかい? と、すっとぼけたことを言う。じゃぁ、どういうことなんだい、

サザエさん症候群って。山田が答える。

「あのさぁ、ボク、またやっちゃったよ、サザエさん。ほら、もう飯食っちゃったけど、

今日、お財布忘れちゃったんだ。サザエさんとおんなじだろ?うっかりしすぎて、買

い物いくのにお財布忘れちゃうような人なんだろ、サザエさんって。悪いけど、飯代、

払っといてくれない?」

 え? そっち? サザエさんって・・・。

                                    了


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第六百五十五話 こたつ人 [可笑譚]

 「おや、お宅も出しましたか、とうとう」

「ええ、ずいぶん寒くなりましたからねえ。もう、こたつがないと、寒くなり

ましたから」

 「そうですね、ついこのあいだまで暑いなあって言ってたのが嘘みたいで」

 「しかし、お宅は立派な家具調のこたつを買ったって言ってませんでした?」

「ええ、去年、そういうのを張り込みましたけどねぇ、もう女房に独占されて

しまって」

「あはは、そうですか。やっぱりそうなりますよねぇ。あれはゆったりしてま

すし」

「おや、こちらのお宅はまだこたつ、出さないんですか?」

「ええ、まぁ。あれ、出しちゃうとね、もう出られなくなるじゃないですか」

「そうなんですよねぇ。もういったんこたつに入ったら最後。すっかりこたつ

人間になってしまう」

「そうそう、こたつに入ったままずるずると」

「でしょう。だから私はこたつ、買ってないんですよ。まぁ、床暖房が入って

るから、それでいいじゃないかと」

「そうですか。でも床暖房はやっぱりなんだか頼りなくないですかねぇ」

「うんうん、私もそう思うな。床暖房はこうやって潜り込めないし」

 冬になると、通勤電車は一層混雑する。みんなこたつを背負って電車に乗る

からだ。こたつ談義をしている二人も、亀のようにこたつを背負っての通勤第

一日目。暖かいが、それはそれで大変なのである。

                  了

 

 


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第六百四十三話 ペーパーレス時代 [可笑譚]

「我社も、そろそろペーパーレスを実施しようと思う」

 唐突に社長が宣言した。社内に波紋が広がる。それを知ったすべての社員が

驚き、のけぞり、不安に包まれた。いったいどうするつもりなのか。それでどうな

るのだ? みんなが持っている疑問はおおむね同じだった。ワンマン社長である

我社では、社長が言った言葉がすべてであり、絶対なのだ。だが、ナンバーツー

である常務が勇気を持って反論した。

「し、しかし社長。なぜそのような暴挙に?」

「暴挙だと? 何を言っておるのだ。いまや世界中がペーパーレスになろうとして

おるぞ。むしろ我社はそうとう遅れておる。パソコンだけならまだしも、スマホやら

タボレットとかいう、それ、あの板みたいなのを、みんな持ち歩いているではない

か。紙を持ってるやつなんぞ、もはやおらんぞ」

「あの、社長、それはタブレットのことでしょうか」

「おお、それじゃ、タボレット!」

「……タブ……ええ、いや、それとこれとはちょっと……」

「こないだはあのニューズウィーク社までが印刷を止めたというではないか」

「はぁ、それはその……」

「ニューズウィーク社と我社は歴史もよく似ておる。あそこはうちと同じように

八十年の歴史を紙と共に刻んできた会社じゃ。それがいま、紙をやめるのだ

ぞ」

「はぁ、それは存じておりますが……。うちは、あそことは違います。印刷する

会社ではないでしょう? ね、社長。うちは……」

「うちは?」

「ええ、うちは、紙屋ですよ!」

「それがどうした」

「うちがペーパーレスになどなったら、何が残るというのです。うちがトイレ

ットペーパーをやめてしまったら、市民は何で尻を拭くのですか?」

「おお……いいところに気がついたな。もちろん、スマホじゃ。尻ふきアプリ

をこしらえて、それで拭いてもらおうではないか。これこそ紙のルネッサンス

じゃ!」

「し、尻ふきアプリ? そんなものでどうやって?」

「そこを考えるのが、君たちのこれからの新しいしごとじゃぁないか!」

「スマホでアプリを立ち上げて……スマホの、この、角のところを割れ目

にあてがって……ちょうどそこのところに、画面に映った疑似紙が当た

るようにして、ええーっと、こう、こ、こうかな……?」

「おお、もう考えているのか」

「……しゃ、しゃちょうー、できません、できません! 大事なスマホがンコ

まみれになってしまいます!」

「そうか? タボレットでもだめか?」

「も、もっとダメかと……」

「ふーむ。スマホもタボレットも見込みなしか……ふーむ、!そうじゃ、浮か

んだぞ!」

「はい?」

「エアーじゃ!」

「エアー? 空気で……?」

「空気ではない、エア尻ふきじゃ」

「エア尻ふき?」

「ほれ、エアギターとか、エアマックとか言うておるがな」

「あの、エアマックは違うと思いますが……」

「とにかく、それじゃ。エア尻ふきでどうじゃ! グッドアイデアじゃろ」

「ぐど……愚度アイデア……しゃ、社長……」

 笑い事じゃない。つまり、素手で拭くわけで。諸君もこれからはエアで尻を

ふくことにできるか?

                                 了

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