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第六百七十二話 馬鹿正直だけど返さん宣言 [可笑譚]

 こうして顔を付き合わせて話をするのはずいぶんぶりなので、野田はいささか

緊張気味だ。

「野田さん、いったいどう考えてるんですか? 近いうちという期限はとっくに

過ぎてますよ!」

 言われて野田はどう返そうかと考えていると、阿部はさらに追い討ちをかけ

てきた。

「もう、これ以上長引かせるのなら、嘘きと言われても仕方がないのではな

いですか? 野田さん」

 嘘きと言われて、野田は瞬間頭に血が上った。

「私は、子供の頃、成績の下がった通知表を家に持って帰ったとき、親父に頭

を撫でられました! なぜそうなったかというと、通知表の生活態度のところに

は、馬鹿がつくほど正直だと書かれてたからなんです!」

「ほぉ? それで?」

「それでって……嘘つきなんていうから!」

「だから、そんなことより、いったいいつ返してくれるんですか、五百円!」

「今、ちょっと、その……今月の十六日までには返さん!」

「返さんって、エラそうに。なんなんですか? じゃぁいつです?」

「ええーっと……ええーっとその」

「あんたはねぇ、結婚するからといって私からご祝儀まで受け取ったんですよ。

なのに未だに独り者じゃぁないですか! あのご祝儀も、返してくださいよ!」

「……ご祝儀……祝儀は返さん!」

「祝儀は返さんって、あんた」

「だって、ほんとうに、もうすぐ結婚するから。それに、祝儀なんてお茶引くと、

ロクなことにならないし……」

「祝儀は返さん、五百円も返さん、どうしてくれるんだ! この嘘き!」

「だからぁ、親父が私の馬鹿正直という評価に喜んでくれたくらい……」

 そこにパチンコから帰ってって来た親父が口をはさんだ

「馬鹿、あれはな、あの通知表には、この子は褒めて育てろって、こう書いて

たからだっ、馬鹿! 借りたもんは早く返せ!」

 大の大人が子供の頃の通知表のことを引き合いに出すというのも、いかが

なものかとは思われるのである。

                                    了


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