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第九百四十八話 最後の夏休み [文学譚]

 長かった夏休みもいよいよあと二日。いいわねえ小学生は。お母さんなんか学校出て、社会人になったはじめの頃はね、なんで夏休みが五日間しかないのって、とっても不満だったわ。夏休みのない夏になかなかなじめなかったわ。あなただって大人になったらそういうことわかると思うけどね。

 それにしてもお休みはあと二日しかないっていうのに、まだ宿題が出来ていないなんて、どういうことなの? 夏休みがはじまったときにあれほど言ったのに。毎日少しづつ宿題していきなさいよ、計画立ててねって。お母さん、そう言ったはずよ。まぁ、ドリルのほうはだいたいやってるようだけど、問題はこの科学課題ね。夏休みはじまってすぐの頃、あなたは昆虫採集するっていってたけれど、上手く虫が採れなかったのね。そうよ、だいたい無理よ。だってあなたは虫が嫌いだもの。お母さんと似てるわね。わたしは嫌いっていうより、怖いんだもの、あんな足が六本もあってもぞもぞ動く生き物なんて! 気持ち悪い。足がなくっておねおね動く青虫とか、もう最悪! そうでしょ。あなたに虫採りなんて出来るはずがないっていったでしょ? もう、そこから挫折。結局なにもしないままここまで来ちゃって。今頃になって植物採集にするって? どうすんのいまから? そう言ったらあなたはいまから集めて来るって。

 最初に集めてきたのがこれね。ハコベ、ウシハコベ、ノミノツヅリ、ナズナ、タネツケバナ、ホトケノザ、ヤエムグラ、センダングサ、ハキダメギク、イノコヅチ、ヤブガラシ……もうこれだけ集めたのね。近所の裏山の方に行ったんだっけ。それでこれだけ集めて、押し花にしまがら名前を調べたんだわ。これだけあればもう充分じゃないってお母さん言ったのに、あなたはもう少し集めたいって。次の日に朝から出かけていったわ。川の方に行くって言ったっけ。野山の草花と川辺の草花って、分類するっていう考えは素敵だと思ったよ。

 だけどあなたは押し花をしかけて途中でほっぽり出して、植物採集に行ったきり。どういうつもりなの? あなたの居ない間にお母さん、ほら、ここまで仕上げてあげたけど。これでいいんでしょ? あとのはどうするつもり? 川辺の草花集めてきてもいまから押し花にして間に合うのかしら。もう二日しかないのに。いったいいつまで植物採集し続けるつもりなの?もう一週間経つわよ、あなたが川に行ってから。もう、ほんとうにいい加減なんだから。早く帰ってきて、お母さんと一緒に、ほら、ここまでできてるんだから、残りの押し花を仕上げてしまいましょうよぅ。ね、お願いだから。早く帰って……早く、早く……。

                                                  了 


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