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第九百三十三話 特別なお化け屋敷 [怪奇譚]

 夏場の遊園地やお祭りにつきものなのがお化け屋敷というアトラクションだ。最近ではお化け屋敷プロ デューサーという肩書を持つ人も登場しているらしく、各地でその手腕を発揮しているという。私が住んでいる町でも今年は斬新なお化け屋敷が公開されると聞 き、恐いもの好きの私としてはなんとしてでも新しいお化け屋敷と言うものを体験したいと思っていたのだが、なにかと雑用仕事が多くてなかなか赴けないでい た。

 ようやく一日だけ休暇が取れたので夕方までゆっくり休んで、日暮れとともにお化け屋敷のあるところへと向かった。交際中の彼女も誘っ てみたのだが、そういうのは金輪際お断りと言われ、仕方なく男ひとりの恐怖体験だ。お化け屋敷は古びた商店街の中にあった。「恐れたお化け屋敷」という看 板が大げさな血のりのついた文字で描かれた看板がかかっていた。夏祭りも昨日で終わり、もうひと通りの客は楽しみ終えたと見えて、入館の列さえなかった。

  入口横に切符の自動販売機があって、おひとり様500円と書かれてある。ちょっと高いなと思いながらコインを入れると、小さな紙片がこぼれ出た。入口横の 小さな窓口に切符を差しだして、暗くなった建物に足を踏み入れる。このお化け屋敷はなにが斬新なのかというと、業界で初めて本物の家、つまり古民家を利用 したアトラクションなのだそうだ。たしかに作りものではないリアリティを感じた。もともとは商店街の中で商売をしていた建物だということだが、もはやどこ が店になっていたのかわからないほどに手が入れられている。土間らしきところから靴を履いたまま一段上がると廊下が続いている。古い日本家屋というもの は、それだけでなにかひんやりと感じるものがある。ぎしっぎしっと板張りの廊下がきしむ。右側に和室があって、老婆が後ろ向きに座っている。その横を通り 過ぎなければならないのだが、動かぬ人形である老婆が妙に気持ち悪い。通り過ぎようとしたそのとき、きりきりきりという音とともに首だけがこっちを向い た。その口は耳まで裂けて……ぎゃあー! でもこれ、作り物でしょ? よく出来てるけど。老婆の横を通り抜けてさらにオクへ進むうちに、お化けの扮装をし た縁者が飛び出してくる、天井から気色悪いものが落ちてくる、壁から血のりをつけた蝋人形が飛び出してくる、と様々な仕掛けが楽しませてくれた。十数分で すべてのアトラクションを堪能して出口にたどり着いた。どうやら入館した入り口の横あたりなのだが、もう一度入り口の看板を見ておこうと見上げたがどこ にも見当たらない。はて? 間違えてるのかなと思って呆然と立っていると、商店街の一員らしき男が寄ってきて言った。

「あれ? お化け屋敷ですかぁ? 残念でしたねぇ、これ、昨日のお祭り終了と一緒に終わっちゃったんですよ。もう、何もありませんよ。一日遅かったですね」

                              了
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