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第八百九話 親切な出会い [空想譚]

 角を曲がると、いきなり変なやつと出くわした。くるくる回るアンテナをつけた銀色の奇妙な帽子をかぶったそいつは、片手を上げて「やあ!」とあいさつをした。小柄な普通の男が、妙なシナをつくりながら言った。

「あのぅ、もしかして助けていただけないでしょうか?」

「はぁ?」

 街の真ん中で突然助けてと言われて私は返す言葉もなく男を見つめた。

「あのぅ、ワタシ、遭難したんです。あそこからやってきたんですけろ……」

 男は言いながら小さく空を指差した。

「空……う、宇宙? あなた、宇宙人なの?」

「あ、そうですそうです。よくわかりましたね」

「だって、その帽子と衣装、そして空を指さしたら……ほかになにがある?」

「そうなんです。宇宙船も壊れてしまって。見せろと言われてももう海に沈めてしまいました」

 私はまたかと思いながらもにこやかな表情を作って答えた。

「では、相当にお困りなんですね。お腹も減っているのではないですか?」

「あ、ほんとうによくおわかりで。昨日からなにも食べていなくって、もう、お腹がペコペコで……」

「そうなんだ。わかった。私には助けるなんてことはなにもできないけれど、ご飯くらいは差し上げられます。いま、家に帰ろうとしていたところですから、どうぞ私についててください」

 そう言って歩き出すと、奇妙な男は黙ってついてきた。最初は黙って歩いていたが、そのうちポツポツと自分がいかに宇宙人であるかということを話しながらついてくるので、私は適当に相槌を打ちながら家路を急いだ。

「ほら、ここが私の家よ。とりあえず入って」

 ただいまぁと言いながら玄関の扉を開ける。すると中から「おかえりなさいませー」と複数の声が私を出迎えた。

「みんな、新しいお友達。仲良くしてあげてね」

 家の中からぞろぞろと出てきたみんな……雪男、怪獣、ロボット、変身ヒーロー、妖怪、思い思いに自分がそのものだと信じる姿をした男たちが「はーい」と返事をしながら顔を覗かせた。

                                        了


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