第八百八話 迷惑な出会い [空想譚]
角を曲がると、いきなり変なやつと出くわした。くるくる回るアンテナをつけた銀色の奇妙な帽子をかぶったそいつは、片手を上げて「やあ!」とあいさつをした。小柄な割には身体中に自信をみなぎらせた男が、真剣な表情で言った。
「突然声を欠ける無礼をお許し下さい。実は聞いてもらいたいことがあるのです」
私はこの奇妙な男を相手にはしたくなかったのだが、あまりにも真剣な表情に気圧されて、つい耳を貸してしまった。
「実は、私はあそこから来たのですが……」
男は顔の前でこっそりと空を指差した。
「宇宙から来たなんて突然言われると、引くでしょ? ぐふふふふ」
答えようもなく黙って男の顔を見つめていると、男は言葉を続けた。
「いや、ほんとうはっても困っているのです。遥か宇宙を旅して地球にたどり着いたところまでは良かったのですが、その、遭難してしまったのです。地表に激突したために船は破壊してしまったのです。だから私は空に帰る事おできず、今夜泊まるところすらないのです」
そんな話を突如されても、私はどう答えて良いか分からない。とても迷惑だし、もうこれ以上付き合うことはできないと思った。適当に頷いてから私は、もう忙しいから行くねと告げて立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと! 待ってください! 本当なんです。地球人はとても親切だと、宇宙ガイドブックにも書いてます。このいい評判を壊すようなことはしないでくださいよう」
「あのね、そんな、宇宙から来ただなんて言われても、私は困るんです!」
言い捨てて強引に歩きはじめた。歩きながら気になって後ろを振り向くと、なんということか、あの銀色帽子の男がついてきているではないか。これは困った。迷惑な男に魅入られたものだ。
「お願いですぅ! 助けてください!」
うわぁ、後ろから
叫んでくる。参ったな、こんなことされたら目立ってしまう。せっかくいままで地味に目立たないように暮らしてきたのに。あんなおかしな人間のために私まで疑われてしまうではないか。何もかも、国から持って来たものも、私の生まれを示す痕跡も、すべて捨て去って、この十数年をひっそりと過ごしてきたのに。あんな気の狂った偽宇宙人のために私の素性がバレてしまう。地球で暮らすのもここまでか……。私は頭の中で最悪のパターンまでを想定しながら、男から逃げるように走り出した。
了
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