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第六百七十話 逃避行 [空想譚]

 人間には、生命の危機に陥ったときに、精神の力によって瞬間移動(Jaunte)

ができる能力があるという設定。(SF小説家Alfred Bester)

なんだって? 小型爆弾を仕掛けた? いつの間に?」

 「ふっふっふ。お前を眠らせている間に、すべて綿密に行ったことだ。もうこ

れで、お前もこの秘密基地もろともオサラバだ」

「は、博士! あんたはスパイだったのか!」

「馬鹿なことをいうな。私はスパイなんかじゃない。私自身がお前が戦っている相手だったのだ」

「あ、あんたが黒幕だったのか! く、くそう!」

「私は、お前が持っている特殊能力、その危機の時に瞬間移動できるという

その力が欲しかったんだよ。おかげでな、大脳のある部位を改良することで

可能になるということがわかったよ」

「な、なんだって! そうかっ。俺をパワーアップしてやると言って眠らせてお

いて、その間に俺をモルモットにしていたんだな!」

「まぁ、そういうことだな」

「く、くそう!」

「そして、これが最後のテストだ。さぁ、ジョウントの力を使って、この危機 から逃げてみるんだな」

「うぅむぅ……ぐぐっ」

 危機に際して瞬間移動するためには、並々ならぬ精神力が要求される。ただ

通に念じただけでは、そう簡単にはジョウントできない。しかし、本当に生命

の危機が訪れたその瞬間、火事場の馬鹿力とでもいうのだろう か、急激に精

神が高まって、気がつけば瞬間移動しているのだ。少なく とも今まではそうだ

った。ジョウントに関して充分に熟練した俺ですら、そう容易にコントロールで

きるものではないのだ。

「ふっふっふ、さぁ、飛んでみるがいい。私はひとまずこの場から退散する」

 博士が去った後で、その時刻が迫ってきた。あと十秒、あと五秒……

「ふんむっ! ぬぬぅうぅぅぅぅぅぅ!」

 小型爆弾が炸裂する刹那、俺は今回も飛んだ。未知なる場所へ逃げ延びたと

思った。だが、何かがおかしい。体中の血流が静止しているのがわかった。……

しまった。どうやら小型爆弾は一年前に博士によって開発された俺の人造心臓

に取り付けられていたようだ……ぐふっ……。

 すでに数万キロ離れたところにあるはずの基地は爆発によって跡形もなく姿を

消していた。そこに取り残された機械仕掛けの心臓と共に。

                           了


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