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第五百四十七話 ウルトラQ太郎 [空想譚]

 あの物語がはじまったのは、私がまだ小学低学年の頃だった。子供心に、あ

の番組は画期的なものだと思った。子供のことゆえ、海外のドラマや映画をそ

れほど多く見ていたわけではないが、少なくともそれまで国内のテレビで放映

されていたモノクロのアニメや、等身大のヒーローが活躍する物語しか知らな

かった私に、SFドラマという新しい世界を見せてくれた。特撮も凝ったもので、

子供の目から見てもミニチュアだとわかっていても、リアルで迫力があった。

 番組がはじまると、まず、奇怪な音と共に、画面にマーブル模様の渦巻き

が現れ、まるで催眠術にかかった蛙のように私はテレビに貼り付いた。新聞

社に勤める男女三人の大人が、スクープを求めて事件が起きた場所に行く

と、何かしら奇怪な出来事が起きているのだった。

 地底怪獣と古代鳥が闘うエピソード、人造人間が列車を暴走させる話、お

金が大好きな少年の話、宇宙からやってきた火の玉から現れた怪獣、南極で

出現した牙のある巨大怪獣、都会に現れた巨大な花……。週末毎に私はテレ

ビの前に釘付けになり、画面に食い入るあまり、毎回、未体験な世界に連れ

ていかれた。そして夢のような三十分をそこで過ごして、気がつくと、家の居

室で家族と一緒にご飯を食べているのだった。

 あのドラマが数十年過ぎた今も、リバイバルで放送された。モノクロだった

ものが、デジタル技術でカラーになって。私は懐かしく思ったが、敢えて見な

かった。あの番組のことはすべて自分が体験したことと同じように覚えている

からだ。そして、もしかして画面の中に、あの頃の私の姿が映りこんでいるの

ではないかと思うと、恐ろしかったからだ。

 そう、私は間違いなくあのとき、あの画面の中に入り込んでいた。不思議な

ことに、番組放映中は、ドラマの中のことしか覚えていない。いや、もっと正確

に言えば、あの番組が放送されていた半年間というもの、番組のこと以外は

何も覚えていないのだ。だが、ブラウン管の中のことは実体験として記憶して

いる。お金の怪獣に変身したのも、亀にまたがって竜宮城に行ったのも、赤い

ちいちゃな怪獣に風船をつけたのも、大猿にみかんを与えていたのも、ぜん

ぶ私だ。いや、むろん、姿形はあのとき出演していた俳優たちのものだが、そ

の魂は私だった。だからあのエピソードはすべて私の思い出なのだ。

 ウルトラQによって実際にはありえない体験をしてしまった私は、大人になっ

てからも現実と空想の境目がわからなくなってしまっていた。だからいま、こう

してパソコンに向かってキーボードをたたいているのも、現実のことなのか、あ

るいは来年放映されるネオウルトラQの中のことなのか、実はわからなくなって

いる。しかし、そんなことはどうでもいいのだ。私は大好きなウルトラ世界の内

外を行き来しながら、この歳になるまで人並みに生きてきたのだから。

                            了 


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