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第五百四十六話 本当になかった不思議な話 [妖精譚]

「これ、本当になかった話なんやけど……」

「何? それ。本当になかったって……それって嘘っていうことでしょ?」

「そう。そうだけど、これまた、不思議な話やねん。あのな、ちっちゃいおじ

さんの話って、聞いたことない?」

「ああ、あるある。不思議なこという人がいるよねえ。あれって、本当なん?」

「本当なんって……これがわからん。こないだもテレビで見たけど、そういう話

をする人って、ホンマに真剣に、間違いなく、絶対、ほんとに見たって言うてる

ねんな」

「そうそう、そうだねえ!」

「ほんでな、俺は見たことないから、そんなん信じてなかったんやんか」

「ああ、僕も見たことないし、友達にもいないなぁ、ちっちゃいオジサン見た

っていうの」

「そやろ? ところがやなぁ……こないだから、俺な、なんか調子悪かってん」

「調子って? 体調? それとも仕事?」

「両方や。体調が悪くって、ちょっと熱っぽいし咳も出るし、なんか胃がむかつく

し、酒飲んでても美味いこともなんともない」

「それでも酒は飲んでたんだ」

「そら、酒は飲みたいもん。んでな、そこまで体調悪いとな、気分も悪いし、気分

がすぐれんかったら、仕事も上手いこといかへんわなぁ。そら、医者も行ったで。

風邪薬か何かもろたけど、こんなん風邪でもなんでもないねん」

「風邪じゃなかったら、何だったの?」

「なんかわからへん。わからへんけど風邪とちゃうねん。自分でわかるやろ、

そういうのんって。そんでな五日くらいずーっと調子悪かったんやけどな、六

日目やったと思うわ。晩飯食べたあたりからますます具合悪なってきてな、も

うアカン思うて、俺早うから布団に入って横になってた。横になっても熱っぽい

し、吐きそうやし、うんうん唸ってたん」

「ふんふん。誰も看病する人いなかったの?」

「そんな人おらへん。一人や。一人で腹抱えて、頭抱えて、うんうん。しばらくそ

うしてるうちに、眠ってたんやろうなぁ。夜中にふっと目が覚めたん」

「ふんふん。それで?」

「目が覚めたらな、幾分、気分が良くなってるんや。ああ、治ってきたんかな?

そう思って横になったまま目を開いてみたらな、なんかおるんや」

「なんかって何?」

「そやから、ちっちゃいおっちゃんやんか」

「ちっちゃいおっちゃん!」

「そうや。ちっちゃいおっちゃんがな、一人ちゃうぞ。何人もおるんや」

「どこから出てきたの、そのおっちゃん?」

「俺の中からや。俺も最初、どっから来たん野やろ思うてたんや。ほんならな、

俺がウエってゲップを出したら、口の中からポコってなんか出たなぁ思うたら、

口の中からなんか出てきて、それがちっちゃいおっちゃんや。口だけやない。

よぉわからんけどな、尻やら腹の真ん中やら、もしかしたら頭のてっぺんから

も出てたんとちゃうか? とにかく、俺のいろんなところからボコッボコってちっ

ちゃいおっちゃんが飛び出して、それがぞろぞろ部屋の外へ歩いて出て行き

よる」

「うわっ! なんだそれ? 気色悪い!」

「そうやろ、気色悪い。そやけどな、ふと気がついたら、俺の調子が随分良くな

ってる。良くなってるどころか、治ってる」

「へぇ! 治った? ってことは、そのちっちゃいおっちゃんが治した?」

「んにゃ。ちっちゃいおっちゃんが治したんと違って、ちっちゃいおっちゃんが、

悪さしてたんやと思う」

「つまり?」

「つまり、ちっちゃいおっちゃんが俺の身体の中におったから、調子が悪かっ

たんやと思うねや」

「ええー! じゃ、ちっちゃいおっちゃんが病原菌みたいな?」

「そうや。まぁ、まさかあんな大きい病原菌はないから、なんか呪われてるみ

たいなことちゃうか?」

「呪われてる……怖わっ! ちゃっちゃいおっちゃんって呪いの小人だったの?」

「まぁ、そんなところやろなぁ。ともかく、その翌日から俺の調子はすっかり元通り」

「治ったんだ。じゃぁ、そのちっちゃいおっちゃんは……」

「そうやなぁ、次の誰かのところに行って、取り憑いてるんとちゃうか?」

「ええー!? 恐いじゃない? それ、ホントの話?」

「…………」

「ねえ、それって本当の話?嘘じゃないだろうね?」

「そやから言うてるやん、最初から」

「最初から、何?」

「最初から、本当になかった話やて、言うたやろ?」

                                    了


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