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第三百七十七話 Double Life-4 失踪。 [謎解譚]

 日本では毎年十万人前後が行方不明者として届け出られている。その多くは

家庭環境や病気、仕事や金銭など、失踪者が自ら行方をくらましているというも

ので、犯罪とされるもの、つまり誰かの手によって故意に行方不明にされるよう

な事件は500件程度だ。だから、行方不明になったからと言って警察のお世話

になるようなことは滅多に起こらないといえる。

 では亜希子の場合はどうなのだろう。根室という具体的な人物が犯人像として

指摘できるのにもかかわらず、犯罪である証拠はどこにも現れていない。私があ

んなことを伝えなければ、亜希子は事件に巻き込まれなかったのではないだろう

か?そう思うと胸が苦しくなる。もしかしたら私との出会いそのものが事件の始ま

りだったのではないだろうか?と、携帯電話が鳴った。亜希子からだった。

 「澄子・・・私・・・どうして?ここにいるのかしら?」

「どこ?どこにいるの?あなたは今、行方不明になってるのよ?そこがどこかわか

る?」

「ええ・・・ここは、根室のマンションだわ。でも、私、軟禁されてるの。出られないの

よ。あたし・・・なんでここにいるのかしら?」

 私は亜希子から根室のマンションがある住所を聞き出して、急いでそこに向かっ

た。一時間後、私は根室のマンションに辿りつき、管理人に事情を伝えて根室の部

屋を開けてもらった。果たして亜希子は根室の部屋の一室にいた。手錠でベッドに

つながれた状態で横たわる亜希子は、朦朧とした眼差しで私を眺めて笑った。

「澄子、来てくれたのね。」

 なんだか違う。これは亜希子だが亜希子じゃない。どうなってるのだ?私は管

理人に手伝ってもらってなんとか手錠をこじ開けて、亜希子をベッドから解放し

た。そしてそのまま病院へと車を走らせた。病院の医師は眼を丸くして私の話を

聞き、慎重に亜希子の様子を調べた。どうやら急性モルヒネ中毒になっていると

いう。医療用の痛み止めとして使われているモルヒネだが、これは医療用といえ

ども麻薬であることには変わりない。何度も続けてしようすると、意識が朦朧とし

て意識が混濁する。場合によっては記憶が飛んだり、記憶障害になることもある

という。亜希子がいなくなってから既に十日以上経つので、恐らくその期間中モ

ルヒネを投与され続けていたのかもしれない。そういえば洵子と根室が勤めたい

たのは医薬品会社。根室がまだそこに勤めているとすれば、モルヒネを拝借する

ことなど簡単に出来るのではないか。医師を通じて警察に通報してもらったから、

根室は今頃警察で取り調べを受けているはずだ。医薬品の使用状況もまもなく

はっきりすることだろう。

 夜になって亜希子は病院のベッドの中で眼を覚ました。ベッド横にいる私の姿

を見つけてにっこり笑った。私も微笑みを返しながら、そのやり取りに違和感を

感じていた。

「澄子、ありがとう・・・来てくれたのね。」

澄子だなんて呼び捨てるほど私たちは親しくなってたかしら?まだ数回しか会っ

ていないのに、亜希子が懐かしい人物のように思える。違う。これは亜希子じゃ

ない。ならば・・・?亜希子じゃない、洵子だ。

 私は眩暈を覚えて床の上に座り込んでしまった。

                                  続く

 


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